野良犬対策

野良犬をなくすための実用ガイド

この冊子は、政府機関、地方自治体、動物対策の専門家が、効果的な最新の野良犬対策についての理解を深め、それを実現していくのに役立ててもらうために、世界動物保護協会(WSPA)が作成しました。

この冊子は、1990年に、世界保健機構(WHO)と世界動物保護協会(WSPA)が共同出版した「犬の頭数管理のためのガイドライン」を補足する目的で作られました。野良犬対策を立てるにあたり、従来から用いられてきた有用な手法や、必要な施設、道具、作業手順についての具体的な参考情報を含めた実際的な詳細情報を盛り込んでいます。この冊子で説明する基礎情報の中には、「犬の頭数管理のためのガイドライン」から内容を引用したものもあります。

更に詳細な情報が必要な場合や、ご相談は、WSPAまでご連絡下さい。

WSPA 世界動物保護協会
89 Albert Embankment, London, SE1 7TP, UK
Tel +44 (0) 20 7793 0540
Fax +44 (0) 20 7793 0208
e-mail: petrespect@wspa.org.uk
web: www.wspa-international.org

訳者 林裕美子


目次

付録

このパンフレットは、犬の対策についてのものです。猫対策についての情報をご希望の方は、「猫の飼い方と繁殖対策」という冊子をWSPAで用意しています。

歴史的背景 ▲目次へ戻る

人と犬の相互依存の関係は、1万2千年以上前のユーラシア大陸で始まった言われています。オオカミが昔の人の野営地や居住地に近づいて餌をもらううちに、差し迫った危険を人に知らせたり、やがては野生動物の狩を手伝うようになり、人に歓迎される存在になりました。このようにして犬の家畜化が実現し、人と動物のかけがえのない絆が築かれました。

犬を飼うことの恩恵 ▲目次へ戻る

犬を飼うことで人が受ける恩恵は数え切れません。犬は、人の作業を補助する動物として、さまざまな用途に用いられます。例えば、牧用犬、そり犬、番犬としても役に立ちます。盲目や聾唖といった障害を持つ人の介助犬としても活躍します。ペットとして飼えば、人の相手をし、人が運動するのを促し、変化に富んだ楽しいライフスタイルを提供し、世話をするという刺激を人に与えることによって、人の孤独や憂鬱をいやしてくれます。また、人の関心を外に向けさせたり、犬といれば危険がないという安心感を与えたり、直接触れることができる心地よさを人に与えることによって、不安感を解消します。 犬の存在が心理学的にも生理学的にも飼い主に恩恵をもたらすことは、さまざまな科学的研究で確認されています。ストレスが解消されると、免疫機能がうまく働くようになることはよく知られています。そばに寄り添う犬がいると人の情緒を安定させるという理由から、ホスピスや病院が犬を飼い始めました。

きずなが壊れるとき ▲目次へ戻る

犬を飼いならし、人の役に立つ仕事をさせ、その代わりに人が犬を保護してきたことにより、人と犬の強い絆が作られてきました。ところが今日、犬を過剰に繁殖させて数を増やしたのに世話をせずに捨てるという行為が、この強い絆に暗い影を落としています。これは、犬を大きな不幸に陥れ、人間社会の健全な発達も妨げます。政府機関や地方自治体の多くは、このような捨て犬が引き起こす問題に直面し、簡単な解決法としてまとめて殺処分にするという方法をとりました。しかし、この殺処分という方法には終わりがなく、毎年毎年くり返すだけのものであるということがわかってきました。なお悪いことに、野良犬の数を一時的に減らすと、残った野良犬の生存チャンスを行政当局が増やしてやることになります。野良犬が「一掃された」地域には周辺から野良犬が移住してきて、もし狂犬病などの病気を持った犬が移住してくれば、感染が広がることになります。 このような「捕獲して殺す」方針にのっとって実際に捕まえられた犬をみてみると、飼い主の家からあまり離れていない場所で捕獲されることが多いようです。飼い主は、このような捕獲に憤慨し、もし殺処分になってしまった場合には、行政当局に対して激しい抗議をするのが普通です。軋轢を起こさずに犬の数を減らすためには、地域社会や動物愛護団体の支持をとりつけなければなりません。 地域社会の余剰犬の問題を解決するときに、捕獲して殺すのが最も効果的だとは、決して考えてはいけません。犬の過剰繁殖という問題の根本的な解決には何の役にも立たないからです。野良犬をなくすためには余剰な犬を取り除くだけではすまないことが、やっと認識されてきました。犬の登録、避妊・去勢、市民の啓発を含む、長期的な視野に立った積極的な介入が必要不可欠です。

野良犬とは? ▲目次へ戻る

国によっては、公共の場で飼い主と一緒にいない犬、つながれていない犬、首輪と識別タグをつけていない犬を法的に野良犬と定めています。また別の国では、首輪をつけずに飼い主の家の付近を放し飼いにされ、夜になれば餌をあさりに遠出させるような場合でも飼い犬です。このような両極端の中間的な存在として、公共の場で放し飼いにされたまま飼い主を待っている犬、迷子になった犬、自ら家出をした犬、捨て犬がいます。気候が暖かければ、雌の野良犬が産んだ仔犬も生き延びることができます。親犬の元の飼い主が見つからなかったり、新しい飼い主のもとに引き取られなければ、このような仔犬は飼い主がいない状態で成長することになり、凶暴な野生の成犬になることもあります。このような野良犬は捕獲が難しく、病気を伝播させることもありますが、生存率が低く大きな問題になることはあまりありません。 野良犬駆除計画では、飼い主がいる犬といない犬を区別し、それぞれに応じた扱いを策定しなければなりません。また、飼い主が責任を持って犬を管理するという根本の問題を解決するための市民の啓発活動とも連動していなければなりません。

費用問題 ▲目次へ戻る

多くの行政組織が人道的な野良犬対策を積極的に行なおうとしない背景には、費用の問題があります。しかしながら、効果が期待できないような対策を施すことによって生じる被害 – 例えば、交通事故、犬の咬傷事故、保健衛生上の問題(狂犬病など)、捕獲して殺処分にする費用、野生動物や家畜がこうむる被害 – などにかかる費用を考えると、対策をとらないことによって節約することは意味がないことがわかります。 イギリスで1996年に野良犬対策にかかった関連費用は、警察が野良犬に対処するのに要した費用が1500万ポンド、地方自治体が動物捕獲要員にかけた費用が1100万~1600万ポンド、交通事故に関連した被害が1800万ポンド、犬によるケガの治療費として900万ポンド、犬による家畜の被害が200万ポンドにものぼります。ところが重要なことは、動物保護員にかける費用は増加したにもかかわらず、このような費用総額は8年前の額より総額で1000万ポンド減少しているということです。効率の良い対策に投資した対価といえるでしょう。 将来的な見通しを持った対策に要した費用は、犬を登録させて登録料を徴収することで補填できます。避妊・去勢を推し進めるために、避妊去勢手術を行なった犬の登録料は引き下げ、収入の少ない年金生活者などの低所得者にはそれなりの便宜をはかります。

効果的な対策 ▲目次へ戻る

効果的な対策を行なうには、包括的でかつ将来性のある計画をたてる必要があります。このような計画には、現時点での飼い主および将来的に飼い主になる可能性のある人達への飼い主教育、飼い犬の出産制限、飼い主がいない犬の保護環境の整備、登録と標識着用の義務づけ、ブリーダーやペット販売業者の認可制度などが含まれます。そして、この計画を効果的に運用していくことが肝要になります。このような対策を成功へ導くためにはどこに重点を置いたらよいかを詳しくみていきます。また、このような対策について法律でどのように規定していくのがよいかを付録2に示します。

啓発 ▲目次へ戻る

地方自治体(市町村)は、ペットを所有することに伴う責任についての啓発を行ない、市民の責任意識を高める努力をします。また、可能な限り、動物愛護団体や地元の獣医を巻き込んでいきます。重要な点は、避妊・去勢の促進、ペット動物の必要性を説くこと、ペットを世話し責任を負うことを理解してもらうことです。すでにペットを飼っている飼い主が責任を持って飼うよう意識の向上を図ることが目的の一つです。衝動的にペットを飼い始めることのないように啓発していくことも必要です。 また、啓発用の資料には、飼い主には法的な責任があることも強調しておきます。 啓発活動には、広く配布できるような様々な印刷物やパフレットの作成も含まれます(例えば、動物病院、図書館、交番、犬の登録センター、犬の雑誌へ掲載、動物愛護団体やドッグブリードクラブの会員に配布)。既存の啓発用資料でよければ、WSPAに申し込めば入手できます。図書館やドッグショーなどで展示できる啓発用の資料も用意します。また機会があれば、マスメディアに活動を取り上げてもらうことも必要です。 犬を捨てようとしたり世話をしないなどの問題が起きたときには、実際に動物を保護する担当者が啓発活動をします。保護された野良犬の元の飼い主がみつかったような場合は、保護担当者が啓発活動を行なう絶好の機会です。

犬の登録と標識着用 ▲目次へ戻る

犬の登録と標識着用は、野良犬対策を成功へ導くためには必須条件です。狂犬病予防注射の義務付けのような保健衛生上の対策は、犬の登録と標識着用が徹底していないとうまく運用できません。 登録は個々の犬の記録をとる制度で、飼い主の詳細とともに登録簿が作成されます。どのような登録制度が一番有効かは、国によって違います。中心になる登録用コンピューターがあり、国中からそこにアクセスできるようにする場合もあります。もし大きい国ならば、地方ごとの認識コードを設定するシステムにすればいいでしょう。犬には、登録簿に記録された標識あるいは番号を半永久的に身につけさせます。この標識を入れ墨にすれば、一目でわかり、読めなくなることもありません。マイクロチップが用いられる場合は、挿入されている事がわかるように肉眼で確認できる印を付けておきます(例えば、MやXの文字を耳の内側か太ももの内側に入れ墨にする)。 犬の標識については簡単な説明を付録4に紹介しています。 この半永久的な標識に加えて、戸外では常に首輪と標識札(もしくは識別タグ)の着用を義務付けます。この札には、飼い主の名前、住所、電話番号などの情報を記入します。首輪が盗まれることが多い国では、安いプラスチック製のテープの首輪を使用するようにすると盗難を防ぐ事ができるでしょう。飼い主についての情報を記入した札は、紐でくくりつけるか、テープで貼り付けます。犬の予防接種の状況が一目で識別できるように、札に色コードをつけることもできます(毎年色を変える)。 犬を一時的に預かってもらう場合(旅行に出るときなど)は、万一犬が逃げてしまっても返してもらえるように、一時的に預ける場所の住所などを首輪に取り付けます。 登録と標識着用のこのような義務づけを導入する場合は、同時に、ペットを捨てたときに重い罰則を課すように規定します。 

犬の登録料あるいは課金 ▲目次へ戻る

犬の登録料(課金)は、避妊・去勢をした犬は低い額に設定します。そうすると避妊や去勢を促進できます。また、年金生活者のように一定の「困窮」状態にある場合や、飼い主がいない犬の里親になることを了解した人も免除します。課金することにしたときは、その方針が市民にしっかり浸透するように、前もって入念な広報活動をします。そうすれば、犬を衝動的に購入することや、課金を払わなければならないとわかると一度犬を捨てて後に別の犬を入手するような事態を防ぐことができます。現在所有する犬についての課金を次の年に延納できるようにすることもできます。こうすれば、課金されるからと慌てて犬を捨てることを防ぐことができます。このような課金収入は、野良犬対策や啓発活動に還元されるようにしなければいけません。そして、課金制度を登録制度や標識着用と連動させていれば、課金逃れが一目瞭然でわかります。犬を登録するときに、標識札を行政側から配布するようにすれば、比較的簡単に実施することができます。

避妊・去勢 ▲目次へ戻る

避妊・去勢は、あらゆる手段で奨励しなければなりません。たとえば、啓発活動、優遇制度(避妊・去勢した犬への課金を低くする)、避妊・去勢手術への補助金の交付などがあります。避妊・去勢手術への補助金制度は地方自治体が策定しますが、動物医療関係者、地元の獣医師、動物保護団体とも連携するのが理想的です。 動物保護団体と地元の獣医師の利害が明らかに異なることから、避妊・去勢推進計画が難しいこともあります。獣医師とは、このような計画に関与することの意義を話し合い、動物保護団体には、このような計画を推進したときに個人経営の獣医師が被るであろう損失を理解してもらうようにします。 また、動物保護団体は、保護した犬を里親に引き渡すときには、必ず避妊・去勢を済ませておきます。地方自治体が保護した野良犬も同様で、保護施設から人手にわたるときまでに避妊・去勢をすませます。 野良犬対策をすすめるにあたり、安く避妊・去勢手術を提供できれば、目を見張る効果をあげることができます。実際に最近行なわれた避妊・去勢キャンペーンで、この方法が野良犬対策にいかに有効であるかがはっきり示されました。スコットランドのダンディー州での実績の報告を付録7に示します。 避妊・去勢手術をおこなう適齢期や最もよい手術方法については、獣医によって考え方が違います。この点については、「避妊・去勢に関するFECAVAの方針(1998年11月)」にまとめられています。付録8を参照してください。手術をする最終的な目的が動物の個体数制限ならば、早期の避妊・去勢には明白な利点があるというのが一致した見解です。

飼い主のいない犬が生息できる環境をなくす ▲目次へ戻る

どのような地域でも野良犬の「収容能力」があり、野良犬の数は、この収容能力に達するまで増え続けるということが一般に知られています。この「収容能力」は、食べ物の量と、ねぐらとして利用できる空間の多少によって決まります。ある地域の「収容能力」を下げる一つの方法としては、清掃を徹底して餌となる食糧を減らすことです。特に、市場、食肉処理場、道沿いにある飲食店あるいは飲食店全般、ゴミ捨て場、工場、人が居住しない場所に気を配ります。

ブリーダーの認可制度 ▲目次へ戻る

ペットが増えすぎた大きな原因の一つとして、見境のない交配が挙げられます。営利的なブリーダーをすべて認可制にして監視することは、とても重要です。認可を得るためには、厳しい動物福祉の条件を満たさなければならないようにします(収容施設、世話、相手をしてやる、獣医の監督、運動、出産頻度などについて)。一般家庭でも、仔犬の引き取り手が未定のままで繁殖させる場合には、認可をとらせるようにします。これは、許可をとったブリーダーだけが、公に(あるいは仲介業者や販売業者を通して)仔犬を販売できるようにするということです。犬や仔犬を販売した人は、そのたびに、犬を購入した人の詳細を認可・登録を担当する関連部局に届け出なければなりません。こうすれば、登録状況なども常に新しい情報に更新できます。

販売業者の認可制度 ▲目次へ戻る

仲介業者やペットショップなどの販売業者も、すべて認可制にして監視下に置きます。認可を受けた販売業者は、認可された繁殖業者からしか仔犬や成犬を購入できなくなるので、登録を担当する関連部局は、繁殖・販売ネットワークを通じて犬の所在を追跡でき、頭数を把握できます。犬の販売は、地下鉄、街中の広場や市場のような公共の場では禁止します。認可を受けるには、動物福祉の基準(収容施設、世話、相手をしてやる、獣医の監督などについて)を満たさないといけません。 認可を出すための事務経費や、制度運用の経費をまかなうために、認可料を徴収します。

制度の運用 ▲目次へ戻る

制度は効率よく運用されなければなりませんが、同時に人道的な配慮がなされていなければなりません。認可や登録、認可されたブリーダーや販売業者に対する立ち入り検査、記録の保持といった日常的な業務のほかにも、啓発活動、避妊・去勢の推進、野犬捕獲員の配置などは、地方自治体が担うことになるでしょう。記録の集中的な管理(特に、集中管理された犬の登録簿)や、その記録照会といった依頼にも対応しなければなりません。 野良犬対策では、野犬捕獲員の仕事が基本になります。担当者を選ぶときには、動物を扱った経験、動物が好きかどうか、人格を考慮します。実際に市民と接しながら啓発活動を行なうという重要な役割を直接担うのが野犬捕獲員です。この仕事に不向きな人を配置してしまったことが原因で、捕獲員の役割が不当な評価を受けることがないようにすることが重要です。 犬が捕獲され、まずは個別に飼育しなければならない場合のためにの適切な犬舎は、地方自治体が用意する必要があるでしょう。このような犬舎を建設する際に考慮すべきいくつかのポイントと、簡単な図面を付録5に示します。必要ならば、WSPAが相談を受けます。詳細な図面の作成の援助もします。付録5には、従来の「長屋型犬舎」に代わる、飼育労力が少なくてすむ新しい「円形犬舎」の説明もしてあります。 野犬捕獲員が使用する専用車も慎重に選びます。運転席と隔絶された後部には、広くて換気がきいたスペースを確保します。そして、いつでも使えるだけの台数を用意し、車の整備も怠らないようにします。このような専用車に必要な装備を付録3に示します。 犬舎も専用車も、病気の感染予防を念頭に置いて設計・清掃をします。ウイルス性呼吸器疾患の拡大を防ぐことのできる犬舎や専用車については、付録5を参考にしてください。 捕獲は動物を思いやった方法で行ないますが、それには根気が必要で、動物の行動についての知識も必要です。 野犬捕獲員は、動物の扱いについての充分な訓練を受け、狂暴な犬でもどんな犬にもうまく対処できるようにします。犬の捕獲方法や、扱いが難しい犬や危害を及ぼす犬への対処の仕方を付録6に紹介します。 捕獲された犬が飼い犬の場合、犬を飼い主に返して、飼い主の責任についての教育を施します。野良犬センター(犬の収容施設)に収容された犬については、個々の犬について詳細なデータを記録します。飼い主が犬を放棄したら、その飼い主についての情報も記録します。できれば、写真も添付します。飼い主が飼い犬を探すときには、この詳細なデータの中から探します。収容されていた犬が飼い主に引き取られる時には、引き渡す前に罰金を徴収します(捕獲員が犬の保護に費やした労力やその他の諸経費として)。 飼い主のいない犬を保管しておく収容施設については、飼い主が犬を探しに来れるように、詳細な施設情報を市民に広く知らせます。飼い主が納得がいくまで探せるよう、犬は、最低でも10日間は一匹ずつ隔離保管します。収容されている間は、居心地の良い空間を用意し、餌と水を与えます。 収容期間が終わったら、里親探しのために地元の動物保護団体に犬を渡します。もしそのような民間団体がなければ、野犬捕獲員自身が里親を見つけるためにあらゆる手段を講じます。安楽死は、里親がみつからなかった場合の最終的な手段として考えます。この場合、ペントバルビタール・ナトリウム(バルビツール酸塩)のように、苦痛を与えない方法を用いることが肝要です。 しかし、どんな野良犬対策を立てるにしても、安楽死という選択肢を最後には残しておきます。収容施設や保管施設で預かる犬の数が定数を超えてはいけません。超えると、動物福祉の面で新たな問題が生じます。 孤立した集落などに少数の野良犬や野犬がいて、特に問題をおこすわけでもなく、里親がみつかる可能性も低い場合には、捕獲して予防接種や寄生虫駆除を行ない、避妊去勢した後に放してやるのも一つの方法です。このような場合には、病気の犬や凶暴な犬だけは安楽死させる必要があります。 犬の糞の後始末を飼い主に義務づける法律の整備は考慮に値します。犬の糞の後始末をすることを規定している条例を作るなら(例えば、特定の公園や繁華街について)、野犬捕獲員には条例にのっとって動けるような権限を与えます。飼い犬の糞の後始末をしない飼い主を、野犬捕獲員が取り締まれるようにします。 このような取り締まりで野犬捕獲員が徴収した罰金は、野良犬対策や啓発活動に還元されます。野犬捕獲員が行なう啓発活動は、地域の強い協力と連携したものでなければいけません。新たに野犬捕獲員の制度を導入すると、制度を浸透させるために、少なくとも最初のうちは捕獲員と市民が相互理解できるような話し合いなどが必要になる場合もあります。このような新しい制度の導入や、それが市民に受け入れられるようにするにあたり、動物保護団体と連絡をとることは有効でしょう。また、野犬捕獲員には、飼い主からペットを没収して動物虐待や世話の放棄をした飼い主を告訴する権限を与えるようにします。

必ず効果がある ▲目次へ戻る

強制力の強い防止対策なら必ず効果があがります。スウェーデンには、犬の登録、標識着用、納税を義務づけた法律のよい施行例があります。この法律によって、飼い主がいない犬の90%に飼い主がみつかるようになり、ストックホルムに唯一ある犬の収容施設では、50ある檻がいっぱいになることはありません。このため、有料の「ドッグホテル」としても利用できます。 スウェーデンの各市町村にある専門委員会では、それぞれに年間に納める犬税を規定していて、登録ナンバーを警察が確認できるように、犬は首輪につけていなければなりません。動物病院には、この登録料から、毎年交付金が支給されます。スウェーデン愛犬クラブは、標識方法として耳に入れ墨を施すことを薦めています。 街なかでは、犬を自由に走り回らせるのは禁止で、つないでいなければなりません。また、犬の排泄は飼い主に責任があり、糞をしたら後始末をしなければなりません。 野良犬がみつかると、通常は警察か発見者がつかまえて地元の犬の保護施設に連れて行きます。飼い主が現れるまで、そこで保管されます。飼い主が現れない健康な犬は、その保護施設で里親を探しますが、たいていは、犬を飼いたい人が順番を待っています。 国レベルで有効な対策が講じられていなくても、市町村レベルで導入した野良犬対策で効果があがることもあります。ロンドンの郊外にあるウォルサム・フォレスト対策委員会では、非常に有効な野良犬捕獲制度を運用しています。その概要を付録1に示します。


付録1) ウォルサム・フォレスト野良犬対策 ▲目次へ戻る

背景

ウォルサム・フォレスト対策委員会(ロンドン郊外にある地方自治体の公的機関)は、3967ヘクタールの面積に9万世帯21万2千人が住む人口密集地域にサービスを提供しています。現在のところ、イギリス政府は国レベルの犬の登録制度を有しておらず、野良犬への対処は、国や政府の機関ではなく地方自治体に責任がゆだねられています。国レベルの登録制度がないことによる不都合にも関わらず、ウォルサム・フォレスト協議会の野良犬対策は成功をおさめています。

犬の登録と責任の所在

1990年に制定されたイギリスの環境保護法のもとでは、野良犬の捕獲と収容は地方自治体が責任を負うことになっています。この法のもとで野犬捕獲員は公務員として認められており、自治体に雇用されて野良犬を取り扱う仕事をします。野良犬が警察に連れてこられた場合は、警察も野良犬の受け入れを行ないます。 1981年にできた動物保健法の一環として1992年に制定された犬対策法は、飼い主の名前と住所が書かれているタグかプレートを犬の首輪につけずに犬を公道を歩かせる事を違法としました。

野犬捕獲員

ウォルサム・フォレストには、三人の野犬捕獲員がいます。いずれも動物関係の仕事を経験したことがあり、動物の扱いや世話が得意であるということで選ばれました。 3人は、この仕事に関係のある様々な講習を受けています。以下がその講習の一例です。

これらの講習は,イギリスのウッドグリーン動物保護施設にある動物福祉大学が提供しています。 また、公園や公共の草地で犬の糞の後始末を監視し啓発活動を行なう公園専門の犬対策職員も二人います。

野良犬のとらえかた

野良犬を捕獲するときには食べ物と忍耐強さがものをいいます!ウォルサム・フォレストの3人の野犬捕獲員は無線で連絡を取り合い、必要であれば後方支援を頼みます。彼らには、十分な装備を揃えた天井の高い運搬用のフォードのバンが三台与えられています。それぞれのバンに装備されている備品は、以下のとおりです。

犬やキツネ用トラップと、危害を及ぼす犬用の保護スーツもあります。 最近までは、次のような3週毎のシフトで、運用されていました。
1週目	午前	7:00	-	午後 3:15
2週目	午前	8:15	-	午後 4:30
3週目	午前	11:00	-	午後 7:15
こうすれば1日12時間の対応が可能になり、残業時間も減ります。市民が予想もしないような早朝や夕方遅くにパトロールすることも可能です。このような通常シフトに加えて、24時間体制で緊急事態に備えます。財政的な問題のため、現在ウォルサム・フォレストでは、対応時間を午前9時から午前5時までに短縮することを余儀なくされ、緊急時の残業も制限されています。

 

犬の収容期間は?飼い主はどのように犬の行方を探せばいいのでしょうか?

捕獲された野良犬は、市町村が管理する犬の収容施設に7日間保管されます。飼い主が引き取りに来なければ、8日目に、新たな飼い主を見つけるために、動物保護団体の施設に移されます。飼い主は、警察や対策委員会を通じて自分の犬を探します。自治体当局に保護されていた飼い犬を引き取るときには、当局が費やした費用のすべてと、犬が逃げたことに対する罰金として法令で定めている25ポンドを支払います。 現在は、犬の保護費として一日5ポンドが請求され、保護されたすべての犬が受ける獣医による健康チェックと予防接種の費用は罰金の25ポンドに含まれます。

自治体とボランティア団体との関係

ボランティア団体との関係は良好です。野犬捕獲員は常にRSPCA(動物虐待防止王立協会)と連絡をとり、動物虐待が見つかれば調査員と一緒になって対応します。野犬捕獲員が法廷で証言することもよくあります。

啓発や飼い主責任の周知のために自治体が果たす役割

自治体では、地元の学校や市民グループの集まりに野犬捕獲員を派遣し、飼い主の責任を教えたり、捕獲員の職務内容を説明して、啓発活動に大きな役割を果たします。 毎年、「全国ペット週間」を企画し、動物福祉に関係する様々な団体の資金調達を助けたり、飼い主責任の普及を図ります。全国でペットショーやパレードなどを開催します。

危険な犬に関する法律

自治体の野犬捕獲員はみな、1991年の「危険な犬に関する法律」に基づいて権限を与えられた公務員です。このため、公共の場で危険とみなされた場合には、どんな犬でも捕獲することができます。また、この法律に違反したとみなされた犬も、すべて捕獲できます。

犬をつなぐことに関する法律

現在のイギリスには、犬をつなぐよう規定した国の法律はありません。しかし、「事務所兼自宅に関する条項」では、特定の公園、遊園地、休養施設で犬をつなぐことを盛り込んだ条例を自治体が作成することを認めています。また、「交通に関する法律」に基づいて公道で犬をつなぐよう行政命令を出すことができます。本対策委員会は、このような行政命令を出すよう関係省庁に働きかけています。

清潔

ウォルサムフォレストでは、公園、公共の草地、公道における犬の糞に関する条例を作成しています。 公道についての条例では、飼い主が犬に歩道や道端の草地に糞をさせることを不法行為であると規定します。公園や公共の草地に適用される条例は次のようなものになります。


付録2) ペットに関する法的規制案 ▲目次へ戻る

一般的な事項

野良犬になるのを防止する手段

ペットのヨーロッパ内(実際は世界中でもかまわないわけですが)の移動が容易になるにつれて識別番号が足りなくならないようにし、国が変わっても同じ番号が使えるよう各国間の登録システムの整合性をはかります。そのような国際的なシステムを実現するには、現在のところマイクロチップを用いるのが最も有効です。

情報提供と啓発活動

ペットの利用制限

外科的な処置や手術

危害を及ぼす犬

しかし、規制を特定の品種に限定しても、その品種を特定するのが困難であるという実際上の問題が発生して、円滑な実施が難しい場合もあります。FECAVA人に危害を及ぼす犬の取り扱いに関する方針説明書(1998年)の付録10を参照。

登録と標識着用の義務づけ、公共の場での口輪の着用、避妊・去勢の義務づけ、動物輸入禁止についての規制などについて以下に述べます。

繁殖

販売/仲介

預託施設

保護施設/避難施設

運搬

輸出/輸入

殺処分/安楽死

制度の運用

倫理委員会


付録3) 犬を制御するための道具 ▲目次へ戻る
犬用捕獲棒(ドッググラスパー)
管状の長い柄の先に手元で伸縮可能な輪がついたもので、犬の頭から輪をかぶせて輪を縮めることで犬を捕獲します。使用する際には、犬が逃げないように輪をしっかりと締めますが、窒息させないようにします。使用時間はできるだけ短くします。緊急事態や犬がおとなしくなったときに即座に犬を解放できる即時解放捕獲棒もあります。
頑丈な捕獲棹(ドッグポール)
頑丈な捕獲棹ならば、人に危害を及ぼす犬も安全に捕獲でき容易に扱うことができます。これにも即座に犬を解放する機能がついています。
首輪とリード
普通の用途には、丈夫な紐か軽い鎖でできた、輪が締まる首輪(スリップカラー)とリードを合体させたものが便利です。実際にはおとなしい犬がほとんどなので、スリップカラーを頭からかぶせて装着し、リード端を持って誘導できます。
狂暴な犬に口輪を装着する
口輪紐を使わなければならない場合もあります。口輪紐は丈夫な材質の細い帯ひもか、やわらかいロープでできていて、それで普通の輪か、引けば締まる輪を作り、犬の口吻にとりつけます。まず、紐で輪を作り、結び目を上にして犬の口吻にはめ、輪を締めて紐の端を口吻の下へまわします。そこで紐の両端を交差させ、犬の首のうしろへ回して蝶結びをします。このようにしておけば、犬を乗り物に乗せるときなどに人を咬むようなことはありません。
追い込み網
広い空間で放れた犬を捕まえるのには、テニスネットのような横に長い網が役に立ちます。壁や柵に面して二人で網の両端を持って立ち、犬を誘導するトンネル状の空間を作ったり、徐々に空間を狭めていけば、簡単に犬を捕まえることができます。網の大きさは、長さ18フィート(5.5メートル)、高さ3フィート(1メートル)か5フィート(1.5メートル)です。
投げ網
接近するのが難しい犬には投げ網を使用します。投げ網は、円形の網の縁に金属製の輪を取り付けたものです。犬に網を投げると、金属製の輪の重みで、犬は逃げることができなくなります。逃げようともがくほど、ますます網に捉えられます。
狂犬病防護手袋
革でできた、高品質の機能性手袋で、手の甲の側は防護用の革が2枚重ねになっています。手の平と手首の部分はやわらかく、楽に作業ができます。人に危害をおよぼす犬を扱う際に適当です。
防護服(手袋と一緒に使用)
野犬捕獲員は、人に危害をおよぼす犬を扱うこともあります。このようなときには防護服を着用します。服の内側は金属の網になっていて、外側は犬が咬んでも破れない材質でできています。捕獲員が犬を拘束しているときに犬の気をそらせるための布片が袖とズボンについています。
犬用のわな
犬用のわなは6枚の金属製の網から成り、ボルトで固定して罠かごを作ります。かごの中には餌を置いて犬をおびきよせます。犬が餌を食べに底面の金網に乗ると、重みで扉が閉まります。

その他の器具、消毒剤

以上の物品は下記で入手できます。

M D Components
Hamelin House
211/213 High Town Road
Luton
Bedfordshire
LU2 0BZ UK

使用する基本的な器具、およびその評価

1) リード

普通の用途には、丈夫な紐か軽い鎖でできたものを使います。輪が締まる首輪とリードが一体になったものが最適です。実際には、犬は大半がおとなしいので、首輪部分を頭からかぶせて輪を狭め、リード端を持って誘導できます。事情が許せば、後で革の通常の首輪をとりつけてリードにつなぎます。

長所:安価であり、軽く、使いやすい。
短所:犬が噛み切ってしまう事があります。

2)犬用捕獲網

長所:犬を移動させるときに安全な距離をおくことができ、口輪の装着がしやすくなります。
短所:犬をおびえさせる形状をしており、使い方を誤ると犬の緊張を高めます。また、犬に痛みを与える場合もあり、扱いにくいという欠点があります。

3) 長手袋

長所:手を保護し、気分的な安心感が得られます。白癬などの病気を防御できます。
短所:物をつかみにくく、手入れが面倒です。

4) 檻

長所:安全に確実に犬を運搬できます。
短所:折りたたみタイプでなければ場所をとります。また、物によっては大変重く、持ち運びに不便です。掃除が面倒です。

5) 網

現場で犬を捕獲するのには、テニスネットのような長いネットが便利です。壁や柵を利用してトンネル状の誘導路をつくり、犬を檻に追い込みます。網は長さおよそ30フィート(9.15メートル)から40フィート(12.20メートル)、高さ3フィート(91.5センチ)で、建物の角や檻の入り口に片方の端を固定し、もう片方を捕獲員の車についている固定具に留めます。
長所:安全に犬を捕獲できる。
短所:もつれやすく、2人で扱わなければならない場合が多い。

6) わな

長所:餌を仕掛けて放って置けます。
短所:持ち運ぶのに複数の人員を必要とします。正しく仕掛けられないと、扉が閉まらなかったり、犬が入っていないのに扉が閉まったりします。市民の注意を引き、反感を買う場合が多いです。

7) 口輪

危害を及ぼす犬には、口輪をはめる必要があります。以下に主な3種類の口輪を紹介します。

長所:怪我をした犬が咬み付くのを防ぎ、犬を拘束するのに役立ちます。持ち運びに便利です。
短所:どの犬にも合うというわけではなく、特にボックスタイプは、清潔に保つのも困難です。やわらかい材質で作ってあるものは、はめ方が難しいです。きつすぎたり、唇が口輪に挟まって痛みを与える場合もあります。

どのタイプも、犬に傷を負わせることなく安全に装着され、装着したものは後で外さなければならないことを覚えておいてください。

8) 体格が小さく口吻が短い犬の口輪

適当な長さのタオルを縦に巻いて、首の周りに巻きつけるだけで十分です。口輪を使用すると窒息死する場合があります。

車両に装備するとよいもの


付録4) 犬の標識 ▲目次へ戻る

マイクロチップ

バイオグラスに封入されたトランソポンダーは、受動的で、読み取り器から送られてくる信号で作動します。

マイクロチップの挿入



マイクロチップは、長さ14mm、幅2mmの米粒程度の大きさで、記録されているコード番号を専用の読み取り器で読み取れるように設計されています。マイクロチップ表面は特別な生体順応コーティングが施されており、1個ずつ滅菌包装されています。専用の注射器具で皮下組織に埋設します。痛みを伴わず、麻酔なしで挿入できます。埋設部位としては、肩甲骨の間か首の左側が一般的です。

生体へ異物を移植すると、副作用を起こしたり、埋設物が体内を移動する可能性があります。このため、FECAVAは、実態を把握するために副作用についての報告を受け付ける体制を導入しました。今のところ、報告数はほんのわずかです。

マイクロチップがペット用に初めて開発された当初、整合性のないシステムがいくつも導入されました。ヨーロッパにおける主要な基本タイプはFDX-A(FECAVA標準)とFDX-B(ISO標準)の二つですが、アメリカやオーストラリアを含む他の国では、他のタイプが使用されています。国際的には、現行の種々のタイプとは多システム対応読み取り器で整合性をとりながら、FDX-B(ISO)チップに全面的に移行するよう合意ができています。マイクロチップシステムを採用する際は、使用するシステムに合わせた多システム対応読み取り器を使用することが重要です。

マイクロチップを動物に埋設する時には、その犬がすでにマイクロチップで標識されていないことを確認します。これには体全体を走査する必要があり、次のような手順が推奨されます。

* マイクロチップを挿入する前にすること

* チップ挿入直後にすること

* 追跡調査訪問

入れ墨

耳の入れ墨

入れ墨は、耳か内腿に施しますが、耳をお勧めします。以下は、イギリスの全英犬登録センターが採用している耳の入れ墨についての説明です。全英犬登録センターが用いている方法は、他の国々で行なっている耳の入れ墨と同じです。

入れ墨の利点

入れ墨を施す

入れ墨を施す間は、犬に痛みを与えないために麻酔をかけるのが望ましいでしょう。仔犬よりも痛みを感じる度合いのつよい成犬では、特に推奨されます。 しかし、もし麻酔なしで入れ墨を施す場合には、口輪をはめ、犬を押さえて安心させるよう助手に手伝ってもらいます。

入れ墨用の器具には様々な種類があり、プロの入れ墨師が使うペン型のものもあります。この場合は、標識の文字を手書きしなければなりません。 文章で書かれた手順を読んで理解しようとしても、実演を見るよりずっと長い時間がかかります。染料をすり込むまでの実際の手順は、30秒もかからないうちに終わります。

標識システムにおける必要条件

国内あるいは国内外で、個体識別に基づいた犬の登録システムを計画するときには、以下の条件を満たす必要があります。

入れ墨対マイクロチップ

入れ墨は、動物標識の便利な方法として長らく利用されてきて、今でもその便利さを強調する人もいます。標識方法としていまだに有効な場合もあり、読み取るのに特別な装置を必要としないという利点もあります。 しかし、国際的な統一システムを作り上げるのに必要な条件を考えると、マイクロチップの方が適当です。

首輪標識:刻印札/刻印専用機

首輪につける金属性標識札に文字を彫る刻印機があります。市販の真鍮製の円形札に刻印専用機で標識情報を刻印すれば、一目でわかる標識を犬の首輪につけることができます。

プラスチックタグ

犬の首輪につけるプラスチック製の標識札もあります。取り扱いが簡単で、耐久性もあります。

このような首輪につける標識は下記で入手できます。

MDC Components, 35/37 Hastings Street, Luton, Beds. LU1 5BE, UK.

付録5) 犬の収容施設 ▲目次へ戻る

犬の収容施設を建設する際のヒント、および設計方法

WSPAが発行している「動物保護施設の設計と運用」は、犬の収容施設を建設する際の一般的な方針や運用方法を決めるときに参考になるでしょう。 しかし地方自治体は、犬舎を短期滞在用の施設として提供することしか考えていないことが多く、運用予算も低く抑えられる場合が多いでしょう。特にこのような状況下で必要なことがらに焦点をあて、取り組むべきことを以下にまとめました。 動物保護団体が運用している動物保護施設がうまく機能している場合には、自治体がこのような団体と契約を結び、野良犬を条例で定める期間収容するために、その団体の施設にある適当な犬舎を借り受けるという協力体制を作ることもできます。 自治体が独自の犬舎を用意しなければならない時は、用意した土地に施設を設計して建設するか(専用施設)、既製のプレハブ施設を建てます。使い勝手の良いプレハブ施設については、この付録で後述します。

専用の犬舎を建てる場合には、単に直線の壁を築いて簡単な屋根をのせるだけでもかまいません。簡単な構造の例を図で示しました。 このような、屋根を保持するだけの設計は、構造が簡単なだけに使いやすく管理もしやすくなります。通常の捕獲器具からの犬の出し入れが容易で、犬に怪我を負わせることもなく、作業者も安全で、建物を壊す危険もありません。犬舎は基本的には、風雨や他の動物あるいは人から、犬を守るような構造にします。 犬舎を設計する前に、その地域で利用できる施設がないかをまずは調べます。このときに、その地域の建築規定やこのような収容施設についての規定がどのように定められているか、また、運営するスタッフが留意しなければならない管理基準などについても調べます。 財政事情がゆるす範囲の最も理想的な建物は、将来的に維持費が少なくてすみ、日常の犬の世話や掃除が容易なものです。手間のかかる作業は、せずに済ませようとしたり、結局はやめてしまうことにつながります。 建物。厚さ150mmのしっかりした土台に、厚さ150mmのコンクリートの基礎を流して底面を造ります。これにコンクリートブロックかレンガを積んで壁にし、目地を平らに埋めて、できるだけ凹凸がない壁を作ります。このように壁の表面の凹凸が少ないと、洗い流すのが容易になります。表面に装飾などは必要なく(初めは)、十分に平坦であれば病原菌が増えることもありません。表面がざらざらしたブロックしか利用できない時には、セメントかしっくいを表面に塗ります。 木製の骨組みや扉枠は、犬が引っかいたり咬んだりして完全に壊してしまうので、使わない方がいいでしょう。犬舎の維持に手間がかかり、病原菌が繁殖します。怪我をしている犬にとっても危険です。 共用の運動場を柵で囲う場合は、鋭角の場所を作らないようにします。鋭角の隅があると、攻撃的な犬がおとなしい犬をそこへ追い込み、救出に入った人にとっても具合の悪い危険な状況を作り出します。 屋根は、既製の鉄製の板やヒシプレートの板を利用すれば、経済的なものができます。断熱効果のあるものを用いれば、温度調節だけでなく結露防止にもなります。板はブロックの壁に固定しますが、必要に応じて角材で小屋組を作ります。屋根が床から2m以上の高さにあれば、木材を使用しても問題ありません。


排水設備: 建築する設備によっては、犬舎の排水を地域の下水道に接続することができるでしょう。このような接続ができない場合は、犬舎の清掃排水などの水を運動場の外の溝へ導き、これをまとめて地下空間へ流し込むようにします。設備は、常に地域の衛生状態を考慮し、衛生基準を満たし、環境に配慮したものにします。ある区画の排水が隣の区画を通って流れていくような設計には決してしてはいけません。感染症が瞬く間に蔓延します。近くを流れる川に排水を直接流すのもいけません。


水: 病気を蔓延させないために必要な重要な項目です。水の供給量に制限があるようなら、犬の飲み水は上水道を使用し、掃除用の水の衛生度はそれほど重要ではないので、川や井戸の水を利用します。


寝場所: 多少なりとも犬に快適さを与えるために、寝床を一段高くしたり、使い捨てできるダンボールを置いてやったりします。使い捨てではない固定空間の場合は、空間の一面あるいは縁の一部を切って、清掃排水が流れ出しやすいようにしておきます。


長期収容犬舎: 一般市民が訪れて自分の家に引き取る犬を見てまわれる保護施設などの長期収容施設は、もう少し見栄えのよいものにしなければいけません。 このような犬は長期間収容される場合が多く、品種・体格・性別を考慮すれば数匹の集団で飼育できる犬や、相当の広さの運動場のついた区画で個別に飼育しなければならない犬がいます。 このような種々の状況に対応するためには、数種類の建物がおそらく必要になるでしょう。

図面1,2

いずれも最も簡単な設計のもので、固定された直線の壁を隣同士の区画で共有するものです。

それぞれの区画には、人が通れる大きさの一枚板あるいは鉄格子の出入り口を設けます。単に犬を収容するだけの経済的な施設で、経過観察もできません。 犬舎は平らな屋根で覆ったもので、換気用に屋根板と壁の上部の間に隙間をあけます。 小屋部分と運動場の広さはもちろん自由に設計できますが、もしそれぞれの区画の広さが変えられるような造りならば、もっと多数の犬を収容できます。

図面3

この図面は、犬を一匹ずつ世話をするための最低限の施設で、4通りの使い方ができます。

上半分の犬舎は、犬舎部分も運動場部分も、お互いが見えない壁で仕切られた完全に隔離されたもので、運動場の長さが2通りあります。 下半分の犬舎は、運動場の仕切りが金網になっており、隣の区画の犬を見たり触れたりできます。こちらも運動場の広さは2通りあります。このような配置にすると、世話をするのに必要な空間を節約できます。すべての犬の観察、餌やり、掃除を1本の作業通路から行なうことができます。 排水溝は中央の通路の地下に集め、通路の中央にある安全扉は、犬の脱出を防ぎます。 屋根は、犬舎部分と運動場(広い場合にはその一部)を覆うようにします。 広さは、もちろん状況に合わせて自由に設計できます。

図面4

図面3とたいへんよく似た使い勝手のものですが、犬舎区画は作業用通路の片側にだけしかありません。 このため、経済性の面からは劣りますが、立地条件に制約がある場合に用いることができます。 通路と犬舎、および運動場の一部に簡単な屋根をつければすみます。 共用の運動場スペースのあるものを示しましたが、この運動場スペースだけを作業用通路をはさんで反対側に設置しても構いません。この場合、作業用通路の犬舎とは反対側に出入り口が作られますが、こうすることにより他の犬舎に入っている犬から運動場を隔離することができます。このほうが具合がよい場合もあります。

円形犬舎

PARASOLは、ウッドグリーン動物施設がケンブリッジ近郊にあるキングスブッシュセンターに建設した独自の円形犬舎で、そのデザインは著作権登録されています。この犬舎は、15年以上にわたって独自の犬舎管理システムとして成功を収めてきました。従来の犬舎に比べて、犬にとって居心地のよい住処となり、作業員にかかる経費が少なく、維持費も少なくて済みます。

建築技術と改良経過

もともとは米国工兵隊が設計した組み立て式の構造物で、確保した用地へ簡単に輸送できて、良質の建物をその場で短時間に組み立てるためのものでした。加工済みの高品質の部品からなり、装飾は施しておらず、維持費もかかりません。PARSOLの最初の試作品2種は、1993年初めにエディンバラ近郊にあるスコットランドSPCAのロジアン動物福祉センターに建てられ、高い評価を得ています。

動物の保健衛生基準

PARASOLの建物は、現在入手できる動物舎の最高の品質を誇るもので、環境衛生関係者と獣医専門家が、動物の取り扱いに関する最近の研究成果を踏まえて協同で設計したものです。 イギリスの自治体が認可する動物預託施設の基準の規定に関して、環境保健局が発表した最新の衛生基準や建築基準を完全に満たしています。

PARASOLの動物収容システム

PARASOLの建物は、動物保護施設、個別収容施設、出産用犬舎、作業犬用犬舎として、今までにない新しく斬新なものです。動物の行動に関する研究と近代の工学技術がやっと融合して、理想的な動物舎が生まれました。

設計目標

大きさと間取り

PARASOLシステムでは、組み立てユニットを使って、それぞれの設置場所に合った大きさと、間取りの融通の利く犬舎を作ることができます。空間的に余裕があれが、円形の建物は土地を最も有効に利用できる形であり、暖房や換気あるいは清掃作業の面からも、たいへん効率の良いものです。

標準的なPARASOLシステムは、内装を変えて猫用の施設にしたり、管理室、受付、医療設備の空間を設けることもできます。また複数のPARASOLをつなげることも可能で、連結部分には、また違った用途に利用できる空間が出現します。

組み立てユニットが融通性に富むので、標準仕様でない様々な間取りを提供できます(設計範囲内で)。ご要望をお聞かせくださればご相談に応じます。

PARASOLの標準仕様

犬を15頭収容できるPARASOLは直径が12メートルあり、中心の核になる部分を16等分された区画が取り巻きます。そのうちの1区画を中心部にある作業空間への通路にし、その作業空間から犬舎として利用する15区画に出入りします。 それぞれの犬舎区画は、内側の寝場所と外側の運動場に分かれていて、いずれも屋根があります。寝場所と運動場の間の壁には出入り口が切ってあり、開閉アシスト機能のある扉が取り付けてあります。必要に応じてくぐり戸を取り付けることもできます。 隔壁の内側は、すべて規格寸法の組み立てユニットになっており、PARASOLシステム専用に開発した防水加工した合成樹脂の板を使っています。

PARASOLの通路部分には、貯蔵庫と調理スペースが一体になった設備を取り付けることができます。この一体型システムは、作業台、流し台、電熱式温水器、照明器具、給水口を装備しています。 気候や天候に合わせて調節できる冷暖房設備が完備しています。屋根の先に設置された換気扇からは、中心の作業スペースと各犬舎スペースに新鮮な空気を取り込むことができます。1時間に16回空気を入れ替える換気能力があります。各犬舎に換気口があるため、空気感染する病気の防止にはきわめて有効です。 PARASOLは、排水構造を作った上で表面に滑りにくい防水加工を施した鉄筋コンクリートの土台の上に組み立てられます。 全く一からの施工も請け負いますが、予め用意された土台の上に誰にでも簡単に組み立てられるセットを「平たく」梱包してお送りもします。イギリス国内外での組み立ての指導も行なっています。 

PARASOLの利点

独特な設計の円形PARASOLには、従来の犬舎よりも数多くの利点があります。 円形にする事により通路が不要になり、中心部の空間から作業者一人が効率よく犬の世話をすることができます。 予め排水設備が用意され、床や壁の表面に防水加工を施してあるため、衛生管理が楽です。給水用のホースの接続口も用意されています。PARASOLは、作業労力を減らし、維持経費を大幅に節約できるよう設計されています。 これまでの実績では、基本的な清掃と餌やりに要する時間は、15の犬舎が直線状に配置された建物で行なう場合の半分以下になり、これにより人件費が削減できる上、作業員が犬の相手をしてやる時間が増えます。 建物が円形だと、隣の犬が見えないので関心が薄くなり、犬が受けるストレスの程度も軽減されます。また、外壁が曲線なので、建物への人の出入りも見なくてすみます。 この結果、犬は落ち着き、騒ぐ程度も大幅に減るので、従来の犬舎よりも騒音がずっと少なくなります。隔壁と屋根による防音効果に加え、外縁にある運動場スペースにも防音効果が期待できます。 高品質の建築素材を用い、組み立てユニット式になっていることで、建設時間や経費を節約できるとともに、外装や内装などの体裁を整える必要もなく、完成後の維持管理の心配もいりません。設計耐用年数は25年です。 イギリスでは、犬舎の持ち主が責任を負うべき犬舎の管理についての基準が厳しくなる傾向にあります。PARASOLは、このような基準を満たすよう(あるいはそれを上回るよう)設計されており、高価な設備を追加する必要は全くありません。 PARASOLに標準装備されている暖房設備と換気システムは性能がよく、費用に対し高い効率が得られます。長方形の建物に同じような換気システムを設置しようとすると、高価な排気管を張り巡らせ、各犬舎に換気扇や暖房装置を取り付けなければなりません。

建築計画

最初に全体的な計画を策定して、これに細部の計画を組み込んでいくようにすることを強くお勧めします。あらかじめ考慮に入れることとしては、以下のようなものがあります。

最初にこのような見積もりを行なうと、設計目的や財政的展望が明確になり、当座のあるいは将来的な事業展開がしやすくなります。

次に予算を立て、設計の概要を決めますが、建物の位置、形、入り口の位置、排水構造などについて設計事務所や排水設備の専門家と相談するために、現地で実際の調査を行ないます。この過程を踏めば、どんな設計でも十分な検討を加えることができ、無駄な出費をせずに納得のいく設計ができます。この後、次のような最終的な計画を立てます。

ご要望があれば、「設計と建設」をすべて組み込んだプランも用意いたします。これには、事前の費用見積もりや現地調査、イギリス国内の関係行政当局との相談や交渉についての支援も含まれます。

設計仕様と技術データ

設計分類/法的規制

PARASOLは、環境省が動物収容施設に関する専門調査委員会を通じて1993年発表した推奨規定に準拠したものです。 製造基準は1987年英国基準BS.5502の第22項に合致し、農業分野2類の用途に分類されます。 イギリスでは、地方自治体からの建築許可が必要で、排水設備の認可もNRAから受けなければなりません。

全体の寸法/立体構造

床面積:113平方メートル
直径:12メートル(16区画)
中心部分の作業区画:15.3平方メートル
入口部分:5.92平方メートル(1区画)
寝場所:一区画2.14平方メートル(15区画)
運動場:一区画3.78平方メートル(15区画)

設計仕様/維持管理

冷暖房設備はBS.5803とBS.5608に合致し、防音設備はBS.2750の第1項とBS.5821の第1項に合致します。維持管理は特に必要とせず、耐性年数は30年から50年です。

犬舎や作業車内への病気の持ち込みや感染拡大を防止するための手順

動物福祉と同時に、財政上の制約あるいは物理的な制約を配慮した実際の運営手順は、中心になる獣医と施設管理者が相談して決定していきます。理論的には評価の高いシステムでも、実際の運営に支障をきたすようでは意味がありません。 その際には、以下のような項目を検討します。

1.施設に収容する犬の選別

施設に収容するのが好ましくないために安楽死させるべき犬についての、確固たる選別基準を作成します。好ましくない犬としては、とても年老いた犬や病気の犬、および他の収容犬や作業者の健康を害する危険のある犬が含まれます。選別は、獣医による検査だけで済む場合もあれば、血液検査や培養検査を行なう場合もあります。

2.病気の予防

施設収容時に、予防接種、寄生虫駆除などの病気予防を必ず行なうようにするのが無難でしょう。

3.隔離場所の準備

新たに施設に収容される犬は、伝染病にかかっていない事がはっきりするまで、密閉された檻で個別に飼育するのが理想的です。収容期間は、問題となる病気の種類に応じて決めます。

4.一般的な衛生

床や建物には、掃除や排水が容易で、水を通さない素材を使います。作業員には、ゴム長靴や、着やすいけれども手軽に洗濯や消毒ができる保護服を支給します。要所には、消毒液を張った靴の消毒容器を用意します。使用済みの犬舎は念入りに消毒して乾燥させ、可能ならば数日間あけて再使用するのが理想的です。

5.餌の保管、調整、給餌

餌は、ネズミを防止できる密閉容器に入れ、細菌やカビが繁殖しない温度と湿度条件で保管します。 給餌の際は、犬同士の病気感染が起きないように気を付けます。給餌用の容器は、使用後に念入りに洗浄し、できれば消毒します。

6.空気感染する病気

空気感染するウイルスの蔓延を防ぐためには、一つの空間で多数の犬を飼育することは避け、十分に換気をし、温度と湿度の調節をします。

7.伝染病が発生したときの対処方法

様々な予防手段を講じていても、伝染性の病気が発生することがあります。このような事態に対処する方法を作業員全員で取り決めておくことが重要です。

8.作業員の教育

作業員全員が病気の伝播経路や対処方法についての基本的な知識を持っていることが必要です。特に、動物、作業員自身、他の作業員へ病気を伝播する危険は、作業員一人一人の衛生管理によって回避できることを認識していなければなりません。 


付録6) 犬の捕獲のコツ
(扱いにくい犬、人に危害を及ぼす犬の扱い方)
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犬の捕獲方法

必要に応じて犬を落ち着かせるようにし、自信に満ちた態度をとります。

どうしても捕獲しなくてもよい場合には、犬を逃がしてやります。そのうち捕獲できるときが必ずあります。

犬に攻撃された時の対処方法

犬に攻撃されるような状況におかれた場合には、飼い主がいない場合でも飼い主が犬に攻撃するようにけしかけた場合でも、以下のような対処をすれば防御効果があがるでしょう。

以上の対処方法では、犬を傷つけたり殺すことを勧めていません。犬を傷つけたり殺したりすると、その行為が人命救助に関係していたことを証明しなければならず、その結果、訴訟に巻き込まれることもあります。

狂暴な犬や野犬への対処方法

犬との対峙方法:いくつかの接近方法

犬の観察

数分の間、犬を観察します。緊急でない場合は腰を下ろします。調査用紙に記入していれば、犬に近寄るために必要な時間がかせげます。優しく親しみをこめて話しかければ、犬もあなたに慣れてきます。要領よく事を運ぼうとしたり、犬を騙したりするよりも良いでしょう。まずは、焦らないことです。

周囲の観察

現場の様子を観察します。犬が驚いたり怯えたらどの方向へ逃げるでしょうか。犬を追い込んで捕獲しやすくできるような建物や庭が近くにあるでしょうか。危ない道路や鉄道、川などが近くにありませんでしたか。 犬に対して適当な位置関係をとれば、臆病な犬ならばたいてい、壁や垣根や塀などに沿って捕獲しやすい場所へ追い込むことができます。

ゆっくり接近する

犬が逃げたり、離れていくようなら、すぐに動きを止めます。食べ物でおびき寄せる事も可能ですが、緊張状態にある犬が見知らぬ場所で餌を食べることはめったにないことを覚えておいて下さい。十分に犬との距離が狭まれば、犬の首にかけるのが簡単なスリップリードで捕獲しますが、軽い素材のリードは頭を通す輪を作りにくくて役に立たないことが多いので、できれば硬い弾力性のある素材のものを使います。

扱いにくい犬

なわばり防衛

犬が決まったねぐらを持っている時にはねぐらを守ろうとします。このような場合には犬をねぐらから追い出して離れた場所へ誘い出せば、攻撃性が低下します。

足首への咬みつき

小型のテリアやコリーの中には、足首や足先に向かってくるものがいます。分厚い毛布のようなもので足を保護して下さい。犬が小さい場合は、犬の上から毛布を被せてそのまま包んで運びます。

とても狂暴な犬

万全の準備を整えてから捕獲の体制に入ります。事前に狂暴な犬だとわかっていれば、補助をしてくれる人を連れて行きます。現場についてから狂暴な犬だとわかった場合は、犬を捕獲するときに防御として使える箒や軽いイスなどを手に持ちます。このように狂暴な犬を捕獲したときにはリードは2本使い、両側から引くようにします。 大きくて狂暴な犬に、口輪をはめようとしてはいけません。

ケガをしている犬

地元の獣医の協力が得られるようなら、獣医に詳細を知らせて対処方法を相談します。相談できる獣医がいなければ、歩けるよう応急処置を施しますが、傷を負っている動物は痛みを感じると咬み付くことを忘れないで下さい。

常に犬の顔を見ながら行ないますが、目を覗き込まないよう気を付けます。犬は当然警戒しているので、いつ噛みついてもおかしくありません。捕獲したら、できるだけ早く車か木箱に入れます。スリップリードのままでは様々な不都合が生じるかもしれないので(例えば窒息、リードの絡まり、犬の上にかがんだときにリードがはずれる)、できれば普通のリードと取り替えます。

犬の持ち上げ方、処置方法

持ち上げる準備

検査と投薬のための犬の拘束方法

以下の5つの方法があります。

1. 台の上にのせた犬(方法1)
2.台の上にのせた犬(方法2)
3.横向きに寝かせる
4.仰向きに寝かせる
5.静脈注射

付録7) ダンディー地区の対策委員会の例 ▲目次へ戻る
ダンディー地区対策委員会
環境衛生局

City of Dundee District Council
1 Shore Terrace, Dundee, DD1 3DB
Tel:44 382-434000 Fax:44 382-434830

野良犬‐ダンディー地区での避妊手術推奨キャンペーンの効果

ダンディー地区対策委員会が行なった避妊手術推奨キャンペーンが、野良犬問題にどのような効果を及ぼしたかということについてのお問い合わせ(1994年6月7日の手紙)をありがとうございます。

背景

1970年代になると、ダンディー市(人口およそ18万人)の郊外には、他の市と同じように大きな住宅団地ができました。ところが、野良犬が増えてきたとみえ、住民の苦情の多くは、野良犬が引き起こすいろいろな問題に関するものでした。

自治体は、問題を解決するために、環境衛生局に野犬捕獲員を2人配置することを決めました。

野犬捕獲員は1981年6月に配置され、やがて年に2500匹の犬を捕獲するようになりました。

問題

野犬捕獲員が熱心に犬を捕獲したにもかかわらず、状況は1980年代を通じて変わりませんでした。捕獲される野犬の数と、犬の収容施設に持ち込まれる引取り手のない犬の数の合計は、1982年の2600頭から1988年の2400頭へとわずかに減少しただけでした。

頭数は減少したものの、困ったことに、殺処分になる犬の割合は、1982年と同じ33%のままでした。収容施設に連れてこられる犬のうち、450頭は生後6ヶ月以下の仔犬で、この50%は殺処分になりました。

解決

このような状況を踏まえて、対策委員会は以下のことを決定しました。

犬の収容施設では、「犬のため」の現金寄付を常に受け付けました。このような寄付金は、すべて避妊手術「基金」として処理し、それぞれの寄付者に、何に使われたかについての報告が委員会から行くようにすることに決められました。寄付金に対するこのような姿勢をとった結果、寄付金が増加し、避妊手術運動が継続していく原動力になりました。

結果

結果は目を見張るものでした(添付資料参照)。野良犬は激減しました。野良犬が群れをなして住宅街をさまようような事態は過去の出来事になりました。委員会の犬対策担当者(以前の野犬捕獲員)は、啓発的な活動に時間を割けるようになり、責任ある犬の飼い方についての意識の普及に努めています。

今後

委員会では、運動をさらに広げていこうとしています。例えば、雄犬の去勢、マイクロチップを用いた個体識別(避妊手術を受けた雌犬にはすでに埋設されています)、寄生虫の駆除運動などです。

以上の情報がお役に立つ事を願っています。さらに詳しい情報が必要な場合は、御気軽にご連絡下さい。

環境衛生局長
補足資料1:避妊去勢対策の効果:ダンディー ▲目次へ戻る
1983年 1988年 1993年 1998年
犬の回収数 2526 2314 1390 948
犬の処分数 642 866 181(1) 82
飼い主への返却数 1163 791 571 380*
里親による引取り数* 662 542 649 464
子犬の回収数 データなし 447 73 21
子犬の処分数 データなし 232 5(2) 1
*推定値
(1) 老犬、衰弱した犬、慢性的に病気、委員会によって人に危害を加えると判断された犬
(2) すべて病気

付録8) FECAVA指針: ▲目次へ戻る

避妊去勢に関するFECAVA指針(1998年11月)

外科的処置に関するFECAVA指針(1998年)

ヨーロッパでは、国によって習慣も文化も異なることは周知のことで、このため、外科的処置について広く意見交換をするのは難しい状況です。

1997年11月にFECAVAに提出された討議資料では、以下のような働きかけを提案しています。

FECAVAに所属する団体の調査結果と、1998年5月26日に開かれたFVEの動物福祉に関する委員会における討議から、次に挙げる外科的処置は意味の無いものであり禁止すべきであるとのおおまかな方向が示されたといえるでしょう。

犬と猫の避妊去勢、および遺伝的障害を矯正するための外科的処置の実施は必要であるということについては、完全な合意が得られました。後者の処置については、矯正手術を行なう際に避妊去勢も実施するべきであるという提案があり、この提案に対する支持もありました。 また、動物実験については、適切な規定があれば認められることになりました。 子犬のオオカミ爪の除去については、まだ論議中です。除去がすでに禁止されている国、およびまだ禁止されていない国のそれぞれから、効果を比較できるデータが報告されることが必要です。

FECAVA見解 人に危害を及ぼす犬について(1998年)

決定事項の要約:


補足資料2:「ペットの尊厳を守る」キャンペーン用の情報媒体 ▲目次へ戻る

「ペットの尊厳を守る」キャンペーンは、ペットの飼育状況や取り扱いを改善していくために、WSPAが全世界で展開する活動です。 以下の資料では、野良犬や野良猫を対象とした人道的な対策や、できるだけ少ない経費で医療処置を行なうための手段を紹介しています。動物福祉に関係する団体ならば、いずれも無料で利用できます。

ビデオ

* 動物対策担当官(Animal Control Officer)

人道的な野良犬・野良猫対策を実施する際の動物対策担当官の役割の概要を解説し、動物の人道的な捕獲方法や取り扱い技術を紹介します。

* 猫カフェ(Cat Café)

猫カフェとは、野良猫に餌をやって飼うために、ホテルなどの厨房や飲食店から離れた場所にしつらえた空間です。

* 猫の飼い方と繁殖対策(Cat Care and Control)

捨て猫や野良猫が引き起こす問題、効果が薄い対策により生じる被害、および動物に与える苦痛に焦点を当てています。効果があがったさまざまな人道的対策を、世界中から集めた実例を示しながら解説します。

* 野良犬・野良猫対策(Establishing A Stray Control Program)

野良犬や野良猫対策の実施初期の状況を解説します。新しい対策を導入して、それを普及させるためには、行政担当者、獣医、警察、マスメディア、動物保護団体、一般市民、すべてが参加することが求められます。

* 犬の人道的な安楽死(Humane Euthanasia for Dogs)

このビデオにはナレーションがありませんが、さまざまな国で行われている人道的な犬の安楽死の方法を紹介しています。

* イスタンブールのバス動物病院(Istanbul's Bus Hospitals)

イスタンブールの中心地に、バスを改造して作られた動物病院があり(あまり理想的とはいえませんが)、そこで行なわれている効果的な動物治療を紹介しています。この事業は、WSPAの「ペットの尊厳を守る」キャンペーンの一貫として支援されています。

* ラム&ファザ島の猫病院(Lamu & Faza Cat Clinics)

このビデオにはナレーションがありませんが、効果的で人道的な野良猫対策ならば、自動車もなく立派な施設もない島でも十分に効果を発揮することを紹介しています。ラム島とファザ島は、ケニア沖の島です。

* 犬と猫の避妊去勢技術(Neutering Techniques for Cats and Dogs)

犬と猫の避妊去勢技術を習得しようとしている獣医のための手引です。性的成熟前の避妊去勢も含む手術手順を詳細に紹介しています。

* 突発的事態や災害時にペットを守る方法、および畜産業者が災害に備えてすべきこと(Plan to Protect your Pets in case of Emergency or Disaster & Disaster Preparedness for Livestock Owners) 

WSPAの加盟団体であるアンティグア&バービュダ島動物愛護協会が作成しました。WSPAを通じて入手できます。

* 野良犬対策(Stray Dog Control)

交通事故、咬傷事故、野犬の家畜襲撃、糞の処理問題、衛生問題の点から、野良犬が引き起こす問題、それによって犬が被る不幸、効果の薄い対策が生み出す目に見えない被害について考えます。そして、どのようにしたら効果的な対策を導入できるのかを、世界各地の例を紹介しながら解説します。

パンフレット

* 動物対策担当官(Animal Control Officer)

人道的な野良犬・野良猫対策を実施する際の動物対策担当官の役割の概要を解説し、動物の人道的な捕獲方法や動物を扱う際に有用な道具を紹介します。

* 動物の安楽死(Animal Euthanasia)

さまざまな安楽死の方法を解説し、人道的な方法と非人道的な方法とを比較しています。

* 猫の飼い方(Care of the Cat)

子供にも大人にもわかる一般的知識。

* 犬の飼い方(Care of the Dog)

子供にも大人にもわかる一般的知識。

* 猫カフェ、使い方(Cat Café & Manual)

猫カフェとは、野良猫に餌をやって飼うために、ホテルなどの厨房や飲食店から離れた場所にしつらえた空間です。

* 猫の飼い方と繁殖対策(Cat Care and Control)

政府、地方自治体、獣医、動物対策担当官、動物保護団体が、効果的で最新の野良猫対策についての理解を深めてそれを実現させていくのを助けます。

* 動物福祉の考え方(Concepts in Animal Welfare)

獣医を養成する教育機関で動物福祉について教えるときに役立つ事例集。

* 動物保護団体を設立してみよう(Establishing an Animal Protection Society)

啓発活動、キャンペーンの方法、行政への働きかけ方、一般市民との連携のとり方、マスメディア対策、必要な施設や世話の仕方、などについてのすぐに役立つ情報を盛り込んでいます。

* 動物保護施設の設計と運用(Planning and Running an Animal Shelter)

動物の保護預かり所を立ち上げて運営するために必要な実務と専門技術を解説しています。

* 野良犬対策(Stray Dog Control)

政府、地方自治体、獣医、動物対策担当官、動物保護団体が、効果的で最新の野良犬対策についての理解を深めてそれを実現させていくのを助けます。

* 避妊去勢の重要性(The Importance of Neutering)

犬や猫に避妊去勢を行なうことの重要性と利点をまとめてあります。

「ペットの尊厳を守る」キャンペーン用に定期的に改訂される資料については、

http://www.wspa.org.uk をご覧下さい。