狂犬病予防法の成立
昭和25年「狂犬病予防法」が成立された際の国会審議をまとめます。
- 第8回国会 衆議院 厚生委員会 4号(昭和25年07月25日)
- 第8回国会 衆議院 厚生委員会 7号(昭和25年07月29日)
- 第8回国会 衆議院 本会議 10号(昭和25年07月29日)
- 第8回国会 参議院 厚生委員会 8号(昭和25年07月30日)
- 第8回国会 衆議院 本会議 9号(昭和25年07月31日)
▼
第8回国会 衆議院 厚生委員会 4号(昭和25年07月25日)原典1
○寺島委員長 | 次に狂犬病予防に関する件について、原田雪松君より発言を求められておりますのでこれを許します。原田雪松君。 |
---|---|
○原田委員 |
ただいま議題といたしていただきました狂犬病予防に関する件について近く提案いたしたいと存じますので、その内容を一応御説明申し上げまして御了承を得ておきたいと存じます。 元来狂犬病予防に関する法律は、大正十一年の一月、法律二十九号で家畜伝染病予防法の一部に規定されておつたのでありますが、近時著しく狂犬病がここ数 年間に非常に激増いたしまして、特に本年のごときは、昨年の三倍を超過しておる状態であります。そういう意味からいたしまして、この予防撲滅の面におきま して、非常に法の上に不備な点がたくさんございますので、この際この法律を改正いたしまして、少くとも社会不安の除去とそれから撲滅の方法を講じたい、こ ういう意味で、実は法を提案いたしたいと存じておるのであります。もちろんこの点はGHQの公衆衞生課の福祉課長のドクター・ビーチユード氏の非常に強い 示唆がございまして、国内といたしましても、ゆるがせにできない一つの恐ろしい伝染病でありますので、これが徹底的に蔓延を防止するために撲滅をやらなけ ればならぬ、こういう趣旨から実は提案をいたしておるのであります。厚生省の七月八日の発表を見ますと、すでに狂犬病の発生頭数は五百五十七頭でございま す。そうしてかまれた人間が千百六十二名になつておりまして、そのうち死亡者がすでに三十名出ております。東京都だけでも相当の数でありますが、現有東京 でかまれた人たちは二百八十七名の多きに達しております。これをこのまま放置いたしますならば、ますます全国にこの病気の蔓延のおそれがあるのでありま す。現存私どもの方で調査をいたしてみますと、全国で畜犬として鑑札を受けておりますものが約百万頭に近いのであります。ところが百万頭の上に、現在野犬 としておりますものが、少くとも百五十万が頭おる見当でございます。そういたしますと、現在日本に二百五十万頭の、のら犬を入れましての犬がいるわけであ りますが、もし一朝にしてこの被害をこうむることになりますと、ゆゆしき問題を惹起するであろうことを痛切に感じておる次第であります。そういう意味か ら、大体の発生地は関東地区でございますが、すでに大阪に一人発病いたしまして、二十八名の咬傷患者を出しておる次第であります。本病にかかりますと、御 承知の通りまことにみじめな症状になりますので、私ども事実自分の知合いの子供がなつたのを見たのでありますが、見るに見かねるような惨状を呈するのであ ります。しかもこの病気は多く子供に発生しやすく、何となれば子供は犬を友だちとして、好伴侶として遊んでおります関係上、そのためにこれがじやれて子供 をかむというような実例がたくさん残されておるのであります。そういう意味から私どもは、この公衆衞生の見地からいたしましても、一日も早く法の完璧を期 していただきまして、予防接種の励行並びにこの蔓延の防止とともに、病毒の撲滅を期したい、こういう意味から提案をいたしておる次第であります。 構想の趣旨につきましては、今ちようど印刷中でありますので、あとでお手元に差上げたいと思いますが、簡單に申し上げますと、そういう理由からこの伝染予防法案というものを提案いたしまして、すみやかに御審査くださらんことを切に希望いたす次第であります。 一言概略を申し上げまして、御了承を得たいと存ずる次第であります。 |
▲▼
第8回国会 衆議院 厚生委員会 7号(昭和25年07月29日)原典2
○寺島委員長 | 次に狂犬病予防法案を議題とし、審議に入ります。まず提案理由の説明を聽取することにいたします。原田雪松君。 |
---|---|
○原田委員 |
ただいま御審議を願います狂犬病予防法案の提案理由を御説明いたします。 国民の福祉を増進し、社会の安寧をはかるにあたりまして、公衆衞生の向上が重要な役割を演ずることは、多言を要しません。そのため公衆衛生に脅威を與え る疾病予防のため、現在種々の施策が進められておりますが、人に感染する家畜の疾病につきましては、飲食用に供せられるものは、屠場法(明治三十九年法律 第三十二号)、食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)によりこれを防止し、人に直接危害を與える家畜の疾病につきましては、家畜伝染病予防法(大 正十一年法律第二十九号)により、予防撲滅の対策が講ぜられる等、種々の対策が講ぜられて着々その効果を上げておりますことは、一般に認められておるとこ ろであります。 犬の狂犬病は、元来犬の疾病であるにかかわらず、人及び他のすべての家畜はもちろん、種々の動物にも感染する疾病でありまして、従来家畜伝染病予防法に よつて予防撲滅がはかられて参つたのでありますが、最近犬の飼養頭数及び野犬数が急増するに従つて、かつてほとんど根絶された狂犬病が、関東地方を中心と して猖獗をきわめ、社会の不安をかもしておりますことは、各位の御承知の通りであります。狂犬病は現在までのところ、一たび発病すればまつたく不治の伝染 病であり、症状悲惨をきわめ、目をおおわしめるものであり、すみやかに本病を一掃して、全国民の安全を期する必要切なるものがありと存じます。このときに あたり、狂犬病は他の家畜伝染病と性格を相違し、防疫措置もまつたく趣を異にいたす点が多いので、その万全を期するため、特に家畜伝染病予防法と別個な法 律によつて、適切な防疫措置をなし得るよう規定し、一刻もすみやかに本病を絶滅いたしたいと存ずるものであります。 以下、本法案の主要な内容について、その概要を御説明いたしたいと思います。 第一に、予防についてでありますが、国民を狂犬病の脅威から守るためには、まず犬の狂犬病の発生を防がなければなりません。その最も有効な方法として、 現在予防注射が実施されているのでありますが、これを徹底するため、すべての犬の登録を行い、定期的な予防注射の義務を課した点であります。またこれと関 連して浮浪犬の抑留を行いまして、根本的に発生防止の措置ができるようにいたした点であります。 第二に、狂犬病が犬の間に発生した場合、この初発の時期に絶滅しなければなりませんので、罹患した犬が早期に発見、報告され、それに対する処置が完全に 行われるよう届出、隔離の義務を課することにいたしたのであります。しかし本病に罹患した犬は、御承知のごとく、狂暴性となり、勢いのおもむくまま人を咬 傷してまわるものでありますから、人畜がこの罹患(りかん)犬と接触することを防ぐため、より徹底した浮浪犬の捕獲をなし、また緊急予防注射を実施し、運 動の禁止、移動の制限、さらに交通遮断等を必要といたしますので、これに関する規定を設けたのであります。 第三に、本病の診断には、まず症状の観察が必要で、さらに脳の病理組織学的検査等が必要となる場合もありますので、罹患犬及びそれを疑われる犬の殺処分 を禁止して、予防員をして検査をさせ、診断を確実にして、爾後の対策を立てる措置が必要であり、また必要に応じて病性鑑定をしなければならない場合も考え られますので、これのできるような規定を設けたのであります。 第四は、厚生大臣に緊急防疫措置として、都道府県知事に必要な防疫手段の実施を命じ得るよう規定した点であります。 第五は、公衆衞生または治安維持の職務に携わる公務員及び獣医師に対して、予防員から協力を求められたとき、拒んではならない規定を設けた点であります。 第六は、抑留した犬を收容するための抑留所の設置を都道府県知事に命ずる規定を設けたのでありますが、この措置は、狂犬病発生上最も危險と考えられる未登録犬、未注射犬、浮浪犬等を抑留した場合、これを收容せんとするものであります。 第七は、家畜伝染病予防法から犬の狂犬病を分離いたしましたので、これに伴つて家畜伝染病予防法中必要な改正をいたした点であります。 以上が本法案の大要であります。何とぞ御審議の上すみやかに御可決あらんことをお願いして説明を終ります。 |
○寺島委員長 | 本件について質疑の通告がありますのでこれを許します。苅田アサノ君。 |
○苅田委員 | 狂犬病に対するワクチンの効果につきまして、現在伝研あたりでも、これが確実性につきましては、非常に議論の余地があるという ようなことを聞いておるのであります。その点につきまして、監督当局の方面におきまして、これがどういう状態になつておるかということの御説明を、ひとつ 聞きたいと思います。 |
○石橋説明員 | 狂犬病の予防注射の効果についての御質問でありますが、従来実施しております実施の成績から申しますれば、確かにきくという 観点で、私どもは申し上げられるのでありますけれども、学術的には、今とかくの議論があるのであります。それが証拠には、狂犬病の予防注射のいわゆる基準 を定めようと、予防衞生研究所で研究中でありますけれども、やはりそこに一定の基準がいまだ制定せられないところに、多少学会的に争論が残つておる。しか し私どもは行政的に実施しました場合に、確かに予防注射によつて効果を現わす、また人のかまれた場合に、その発病を防止するという点において、統計的また 実際の経験から、その効果を認めて、行政的にはそれを実施しておる、そういう状況でございます。 |
○原田委員 | 私みずからやつておるのでありますが、今やつておりますのは、パスツール・ワクチンを主として使つております。しかしこれには ソーゾニン・ワクチンを併用しますことによつて、完全に予防治療ができる。いま一つこれに難点がありますのは、従来試験動物は、野犬をもつてこれに充てて おつた、ところが、野犬はいろいろな関係から不完全である。だからこのごろは、やぎなり、うさぎによつて狂犬病予防液をつくる、こういうふうになつており ますので、現在のものは非常に優秀なように考えます。これによつて私どもは撲滅ができる。現在私がやつております二つのワクチンを混合しまして注射しまし た結果は、非常に成績がよいのであります。これを一言申し添えておきます。 |
○苅田委員 |
ただいま当局の説明を伺いましても、学術的に申しまして、現在行われておるワクチンが必ず正確なものであるということには、ま だ一致点が出ていないということがうかがわれるのでありまして、これは非常に緊急を要する問題でありますので、一応このような措置をするということには、 私ども反対ではございませんけれども、なおこの点については、関係当局方面におきまして、製造及び監督その他につきまして、十分な御注意を拂われまして、 完全にこの目的を達成せられるような御注意をお願いしたいということを希望いたす次第であります。 次に、現在輸出入いたしております犬の数量、それからこの増減の傾向、あるいはこれに要しております金額等について、大要をお知らせ願いたいと思うのであります。 |
○石橋説明員 | 動物の輸出入は、実は農林省所管になつておりますので、私ども手元に正確な数字はないのでありますけれども、現在のところは、犬の輸出入は非常に少い、月報等ではゼロを報告されておるように承知をしております。 |
○苅田委員 | 提案者の方に、以上のことにつきまして、御答弁が願えるような資料はございませんでしようか。 |
○原田委員 | 正確な数字は持合がございませんが、日本犬の輸出ということは、相当に注文があるようであります。ただこちらの方に入りますも のは、セパードの純粹であるとか、その他のものも入つておるのでありますが、出入の問題は、向うから入るよりも、日本から出る方が多い。ことに柴犬のごと き、土佐犬のごときというものは、相当に輸出せられておるという情勢でありますが、数字のことは、はつきりわかりません。あとでこれは畜犬協会の方を調べ ますればわかりますので、データをもつてお知せいたすことにいたしたいと思います。 |
○苅田委員 | そうしますと、これは大体特殊の目的を持つております民間業者が、輸出入をやつておるというように大体理解されるのですが、それで間違いございませんでしようか。 |
○原田委員 | 輸出、輸入ということは、民間ではできぬのであります。おそらく農林省の方にそういう注文が参りまして、それを集纒して輸出します場合には、その機関を通じて選択して、健康診断血統登録等をいたして出しておるようであります。 |
○苅田委員 | 機関はいずれ政府機関だろうと思うのでありますけれども、それをこちらで引受けてやつておる人たちがあるわけですね。そういう のはやはり何らかそういうような組合をつくつて、たとえば向うからは警察犬であるとか、あるいは軍用犬であるとかいうような、品種の珍しい犬の輸出入とい うことになつておると思うのです。私その間の事情はよくわからないのですが、やはりそれにはそういつた民間の業者団体があつて、農林省を通じてやつておる のではないかと思うのですが、その点はどうですか。 |
○原田委員 | それは今お話の通り、そういうふうな経路をたどつておるようであります。 |
○苅田委員 | 私がこれをお聞きいたしましたのは、やはり費用の分担の点に関係があるからお聞きしたわけなんで、やはり犬のワクチンの注射に 対する費用は、浮浪犬の場合は、私は国家負担――国庫あるいは市町村の負担でも同様でありますが、そういう負担でやるのが当然と思うのでありますけれど も、そうでなくて、特殊の人の持つておる犬に対しましては、私はあくまで犬を持ち得るような環境にある人々自身が、その負担はまかなうべきであるというふ うに考えますので、もしそういうようなことでございましたならば、この負担の分担のところにございます国の負担する費用の中で、第七條の規定による輸出入 検疫に要する費用というものも、私はそのような、直接利害関係を持つておるところの人たちの負担になるべきじやないかというふうに考えるのでございますけ れども、その点に対しましては、いかがでしようか。 |
○原田委員 | 国で輸出入の問題に対しましての予算は持つておるようであります。だから国が代表となつてやりますので、その他のものは全部所 有者の負担になつておりますが、輸出入のいろいろな経費は国が持つことに、大体予算措置ができておるようであります。しかし検査手数料であるとか、そうい うものは所有者の負担に、ここにはなつておるのであります。その点は国がやる点と、民間でやる点とはつきりいたしておると思います。 |
○苅田委員 | 輸出入の場合は、資料をいただきませんと、いましばらくはつきり申し上げられませんので、大体ただいまの御説明の程度で了承いたしておきます。さらに詳しい資料をいただきましたならば、御質問申し上げたいと思います。 |
○青柳委員 | この法案につきまして、二、三承つておきたい点があるのでございます。この法案によりますと、いわゆる予防員というものを置か れます。この予防員は非常に大きな権限を持つておる。犬を抑留する権限、あるいはそれを処分する権限、いろいろたくさんあるのでありまするが、ことに二十 條を拝見いたしますると、この予防員は公衆衛生または治安維持の職務に携わる公務員及び、獸医師に対して協力を求める権限を持つておる。この協力を警察官 あるいは獸医師は拒んではならない、しかし拒みますると罰則があるのであります。非常に大きな権限を持つております。しかるにこの予防員につきましては、 法案を見ますると、獸医師であれば足るというふうなことでありまするが、いかなる程度の資格をもつておるものを予防員とされるおつもりであるか。しかもそ の任命に際しまして、どの程度の数を考えておられるか、その点について承りたいと思います。 |
○原田委員 | ごもつともな御質問と思いますが、この点は食品衞生、乳肉衞生というようなものについて、県の方でも本部の方に十二、三名おり ます。地方を通じて、一県で大体三十人から三十五人おるようであります。その人たちは公務員の資格を持つた人で、各地に分布的に散在した警察單位におりま す。だから、これをただちにその方に振り向けることは、何ら支障はない。それから獸医師の問題でありますが、獸医師の無医村はほとんどございません。多い ところは一箇村に三人も開業いたしておりますので、ただちに協力態勢が整えられる、事実上また自分の本職の上からいいましても、すぐ進んで参るような傾向 にありますので、御懸念はごもつともだと存じますが、実際面には、何ら支障がないということを御了承願います。 |
○青柳委員 | そういたしますと、予防員に任命する人は、県におる一県平均三十名程度の人、その人を予防員に任命せられる御所存である、そういうふうに考えてよろしゆうございますか。 |
○原田委員 | さようでございます。 |
○青柳委員 |
わかりました。 次にもう一点、第十六條「都道府県知事は、狂犬病が発生した場合において緊急の必要があると認めるときは、厚生省令の定めるところにより、期間を定めて 狂犬病にかかつた犬の所在の場所及びその附近の交通をしや断し、又は制限することができる。但し、その期間は、七十二時間をこえることができない。」これ に関しまして、狂犬病が発生したということで、人間の交通を遮断しまたは制限するという規定であります。これは法律的に見ますると、非常に大きい問題であ ると思うのであります。提案者はそういうことをよく御存じの上で、かかる法案をつくられたことと思うのでありますが、いかなる理由によりまして、かかる非 常に強力な規定を設けられたか、それについて承りたいと存じます。 |
○原田委員 | この点は非常に議論の焦点になるのではないかと思います。人でさえ特殊な伝染病以外は交通遮断をやつていない。この狂犬病並び に動物に対してのみ、なぜこんなことをやるのだ、こういうことが一応言えると思うのでありますが、これは人でないがゆえに、この必要があるのであります。 たとえて申しますと、狂犬病が発生しました地域は、きまつておるのでありますが、しかも狂犬病の罹病犬というものは、畜犬よりも野犬の方が非常に数が多い のであります。ですから、いつ何時その区域内に野犬が徘徊して参らぬとも限りません。特に私どもが実験をした例から申しますと、犬の発情期に、もしめすの 犬がおりますと、野犬が何十匹もそこに押しかけて来る。しかもそれが病毒を持つておるという例がないとも限りません。そういう意味から、これは人が移すの ではなく、その野犬がもし咬傷いたしますると、ただちに悲惨な病状を呈しますので、この点は伝染病予防法からいいまして、狂犬病に限つては、それを設けな ければ意味をなさない、こういうような考え方から、ここに社会的には少少無理のようにも考えられますが、この野犬からの危險防止ということをねらいといた しまして、こういうことをやらなければ徹底したことはできない。しかもこの問題は、地方長官の権限によつて禁止もできれば制限もできますので、おそらく実 際上禁止ということはあり得ないと思いますが、これは非常の場合をさしておりますので、ある程度は制限の程度でとどまると思います。しかし万一そこにもこ こにも狂犬病が出て、きのうも三人かまれた、きようは十人かまれたというような場合は、一応遮断しなければならぬという最悪の場合まで考えておりますの で、どうかひとつ御了承願いたいと思います |
○青柳委員 | この十六條の問題は、政府御当局におきまして、この法律が公布施行ということに相なります際には、厚生省令をつくられるという ことに相なつております。従いまして、今の提案者の趣旨を生かすようにと申しまするか、都道府県知事の認定権によるものでありまするから、都道府県知事が かかる処置を行いまする際には、十全の注意を拂つて、弊害のないように仕向けるような省令を、ひとつお考えおきを願わなければ相ならぬと考えるのでありま す。これで私の質問を終ります。 |
○丸山委員 | 大体私が質問したいと考えておりましたことは、青柳委員からほとんど御質問になりましたので、一点だけお伺いしたいと思いま す。やはりこの十六條でございますが、十六條が一番問題になると考えております。この條文の中に、「都道府県知事は、狂犬病が発生した場合」という文句が あります。この狂犬病とは、もちろん犬の狂犬病だと考えておりますが、犬が狂犬病を発したということの認定は、どういうことで発生したと確定するのであり ますか。その辺の取扱い方で、かなりいろいろなむずかしい問題が起ると思いますのでお尋ねいたします。 |
○原田委員 | 診断をやりますのは、前の條項にこれも掲げてありますが、もちろん獸医師あるいに予防員か、防疫員が狂犬病あるいは狂犬病の疑 似症ということを認定しなければ、この処置はとらないのでありまして、これはそういう時期において、係員の諸君が嚴格なる検診を行いまして、そうしてこの 処置に出る、こういうことになりますので、その獸医師並びに防疫員の諸君は、手前の條項にございます通り、これを発見するまでに相当な努力と注意を拂いま して、これを認めるのであります。この獸医師並びに予防員が認めた場合の適用でありますので、その点はそういうことでいいのではなかろうかと思います。 |
○丸山委員 | 実は私この條項を非常に心配いたしておりますのは、ただいまのような御説明でございますと、予防員でございますとか、獸医師が 診断を確定したときに、初めて県知事が緊急の必要があると認めてやるということになりますと、場合によりますと、実際交通を遮断したり、いろいろなことを やらなければならぬ、制限をしなければならぬ必要があるときにはこれが行われなくて、非常に手遅れになつて、おそくなつてからそういうことが行われるよう な危險があつて、緊急の事態に対処するにかえつてこの條項は困るのではないかと考えるのであります。実は私は狂犬病が発生した場合でなくても、狂犬病に疑 わしいものが発生した場合にも、緊急の必要がある場合にはやつてもいいのではないか。また狂犬病が発生したということを確定されて、その犬がつかまえられ てしまつた後において交通を遮断する必要はないと考えられまするので、何かその辺に対して御考慮があるかどうかということを承りたい。 |
○原田委員 | 狂犬病が発生した場合ということのみに、お考えを持つていただいておると思いますが、これは疑似症の場合も含んでおるわけであ ります。第十條に、疑似症の項目が入つております。そういう場合も、やはり緊急必要というようなことにとつてよろしいと思いますので、さよう御了承願いま す。 |
○苅田委員 | もう一点関連して……。 |
○寺島委員長 | あなたに対する質疑は先刻終了したのですが、特にもう一点だけ許します。 |
○苅田委員 | 提案理由に、近来特に飼育犬、野犬の増加が著しいということか書いてあるのであります。この状態はおわかりになると思いますが、その原因、どういう原因でこういうふうになつたかということがおわかりでございましたら、御説明願いたいと思うのであります。 |
○原田委員 | 現在今年まで厚生省の方で予防注射をやられたものは、約百万近いものをやつておられるようであります。八十何万――数字は別に 持つておりますが、それだけの犬が予防注射をやつた。ところが現在の私どもの見通しでは、野犬として取扱うべき性質のものが、少くも百五十万おる見当であ ります。だからこれを合計しますと、二百五十万の犬が日本におるということになる。しかも畜犬でない野犬が百五十万もおるということは、これはゆゆしい問 題を惹起しないとも限りません。そういう意味から特に大阪では、一頭発生して、かまれたものが九人でありますけれども、東京附近には日々に蔓延の徴候かあ りますので、時節柄最も必要なりという意味で、野犬の方面の整理をやる。そしてすでに所有者がないものは撲滅的に殺処分をやるということもあり得ると思い ます。もちろん厚生省でも相当の額を費して、一年に何回か野犬撲殺をやつておるわけであります。そういうふうな段階でございますし、これは今年は昨年に比 較しまして、三倍強の発生を見ております。しかも昨年のごときは、罹病者の七割が死んでおります。実にこれは悲惨な死にようをするのであります。そういう ところから私ども考えまして、ぜひこれを緊急に御承認を得たい、こういうので提案をいたした次第であります。 |
○寺島委員長 |
他に本案についての御質疑はございませんか。――なければこの際おはかりいたします。本案についての質疑はすでに終了いたしておりますので、この際質疑を打切りたいと存じますが、御異議ございませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○寺島委員長 |
御異議なければ、質疑を打切ることに決しました。 次に本案についての討論に入ります。苅田アサノ君。 |
○苅田委員 | 共産党といたしまして、狂犬病の予防注射を行うことにつきまして、そのこと自体には少しも反対はございません。ただ問題は、こ うした法律に制定しまして、国の仕事としてこの事業を行うからには、現在まだ狂犬病のワクチン等についての疑義が、学術的にも残つておりますので、この点 につきまして、国の方では十分なる研究費をさいて、そして至急にこれの完全なる対策をはかられたいということが一点と、それからこの注射を行います費用の 負担は、浮浪犬の場合には、これは国庫負担であるということは当然でありますけれども、しかしながら、これが個人の飼育犬の場合には、全部これは各個人の 負担にするという建前を明瞭にやつていただきたい。そして非常に生活不安のために多くの生活倒壞者が出ておる今日において、そういう特殊な人たちの飼育犬 のための費用まで、一般大衆にかけられないような措置を十分に講じていただきたいということを特に、要求いたしまして、この法案に賛成いたします。 |
○寺島委員長 |
これにて討論は終局いたしました。 これより狂犬病予防法案の採決をいたします。本案を原案の通り可決するに賛成の諸君の御起立を願います。 〔総員起立〕 |
○寺島委員長 |
起立総員。よつて本案は原案の通り決しました。 なお議長に提出する報告書の作成に関しましては、委員長に御一任願いたいと思いますが、御異議ございませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○寺島委員長 | 御異議なければさように決します。 |
▲▼
第8回国会 衆議院 本会議 10号(昭和25年07月29日)原典3
狂犬病予防法案(原田雪松君外六名提出) | |
○福永健司君 | 日程追加の緊急動議を提出いたします。すなわちこの際、原田雪松君外六名提出、狂犬病予防法案を議題となし、委員長の報告を求め、その審議を進められんことを望みます。 |
---|---|
○副議長(岩本信行君) |
福永君の動議に御異議ありませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○副議長(岩本信行君) |
御異議なしと認めます。よつて日程は追加せられました。 狂犬病予防法案を議題といたします。委員長の報告を求めます。厚生委員会理事原田雪松君 〔原田雪松君登壇〕 |
○原田雪松君 |
ただいま議題となりました狂犬病予防法案について、厚生委員会における審議の経過並びに結果の大要を御報告申し上げます。 従来犬の狂犬病については、家畜伝染病予防法によつて予防撲滅がはかられて来たのでありますが、近時著しく猖獗の度を加えて参つておるのであります。他 の家畜伝染病とは著しく性格が相違し、防疫措置もまつたく趣を異にする点が多いので、家畜伝染病予防法とは別個な法律により狂犬病を撲滅せんとするのが本 法案の目的であります。 次に本法案の内容のおもなる点について申し上げますれば、第一は、すべての犬の登録を行い、定期的な予防注射の義務を課したことであります。 第二は、狂犬病が発生した場合に、罹患した犬が早期に発見、報告され、それに対する処置が完全に行われるよう届出、隔離の義務を課したことであります。 第三は、浮浪犬の捕獲をなし、また緊急予防注射を実施し、運動の禁止、移動の制限、さらに交通遮断等に関する必要な規定を設けたことであります。 第四は、罹患犬及びそれと疑われる犬の殺処分の禁止及び病性鑑定のため解剖ができるように定めたことであります。 第五は、厚生大臣に、緊急防疫措置として都道府県知事に必要な防疫手段の実施を命じ、また抑留した犬の抑留所の設置を命じ得るような規定を設けたことであります。 本法案は、本日、本委員会に付託せられ、提案者より提案理由の説明を聴取した後、ただちに質疑に入り、きわめて熱心な質疑応答が行われたのであります。 次いで質疑を打切り、討論を経て採決に入りましたるところ、本法案は全員一致をもつて可決すべきものと決した次第でございます。 以上御報告申し上げます。(拍手) |
○副議長(岩本信行君) |
採決いたします。本案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○副議長(岩本信行君) | 御異議なしと認めます。よつて本案は委員長報告の通り可決いたしました。 |
▲▼
号外(PDF)
第8回国会 参議院 厚生委員会 8号(昭和25年07月30日)原典4
狂犬病予防法案(原田雪松君外六名提出) | |
○委員長(山下義信君) | 次は狂犬病予防法案を議題に供します。先ず提案者の提案理由の説明を求めます。衆議院議員原田雪松君。 |
---|---|
○衆議院議員(原田雪松君) |
只今議題となりました狂犬病予防法案に対する提案理由の説明をいたしたいと思いますが、御承知の通り最近非常 に狂犬病が大猖獗を極めまして、社会不安を非常に喚び起しております。すでに現在で昨年の発病頭数の三倍強になつておりまして、発病頭数も現在五百八十頭 を数えております。そうして咬傷された人方は千百九十八名の多数に上つて、現に死亡者が三十一名を出しております。そういう関係から急にこの法案を御承認 頂きまして、社会不安の一掃に努めたい、そういう理由であるのであります。只今御審議を願います狂犬病予防法案の提案理由は、国民の福祉を増進し、社会の 安寧を図るに当りまして、公衆衞生の向上が重要な役割を演ずることは多言を要しません。そのため、公衆衞生に脅威を与える疾病予防のため、現在種々の施策 が進められておりますが、人に感染する家畜の疾病につきましては、飮食用に供せられるものは、屠場法(明治三十九年法律第三十二号)、食品衞生法(昭和二 十二年法律第二百三十二号)によりこれを防止し、人に直接危害を与える家畜の疾病につきましては家畜伝染予防法(大正十一年法律第二十九号)により予防撲 滅の対策が講ぜられる等、種種の対策が講ぜられて着々その効果を挙げておりますことは、一般に認められているところであります。犬の狂犬病は元来犬の疾病 であるに拘わらず、人及び他のすべての家畜は勿論、各種の温血動物にも感染する疾病でありまして、従来家畜伝染病予防法によつて予防撲滅が図られて参つた のでありますが、最近犬の飼養頭数及び野犬数が急増するに、従つて、曾て殆んど根絶されんとしておりまいた狂犬病が関東地方を中心といたしまして猖獗を極 め、社会の不安を醸しておりますことは各位の御承知の通りでございます。狂犬病は現在までのところ、一たび発病すれば全く不治の伝染病であり、症状悲惨を 極め、目を覆わしむるものがあり、速かに本病を一掃して、全国民の安全を期する必要切なるものがあると存じます。このときに当りまして、狂犬病は他の家畜 伝染病と性格を相違し、防疫措置も全く趣きを異にいたす点が多いのでありますので、その万全を期するため、特に家畜伝染病予防法と別個な法律によつて適切 な防疫措置をなし得るよう規定し、一刻も速かに本病を絶滅いたしたいと存ずるのであります。 以下本法案の主要な内容についてその概略をお説明いたしたいと存じます。 第一に、予防についてでありますが、国民を狂犬病の脅威から守るためには、先ず犬の狂犬病の発生を防がなければなりません。その最も有効な方法といたし まして、現在予防注射が実施されているのでありますが、これを徹底するため、すべての犬の登録を行い、定期的な予防注射の義務を課した点であります。又こ れと関連し浮浪犬の抑留を行いまして、根本的に発生防止の措置ができるようにいたした点であります。 第二に、狂犬病が犬の間に発生した場合に、この初発の時期に絶滅しなければなりませんので、罹患した犬が早期に発見、報告され、それに対する処置が完全 に行われるよう届出、隔離の義務を課することにいたしたのであります。併し、本病に罹患した犬は、御承知のごとく、狂暴性となり勢の趨くまま人を咬傷して 廻るものでありますから、人畜がこの罹患犬と接触することを防ぐため、より徹底した浮浪犬の捕獲をなし、又緊急予防注射を実施し、運動の禁止、移動の制 限、更に交通遮断等を必要といたしますので、これに関する規定を設けたのであります。 第三に、本病の診断には、先ず症状の観察が必要で、更に脳の病理組織学的検査等が必要となる場合もありますので、罹患犬及びそれを疑われる犬の殺処分を 禁止して予防員をして検査をさせ、診断を確実にして事後の対策を樹てる措置が必要であり、又必要に応じて病性鑑定しなければならない場合も考えられますの で、これのできるような規定を設けたのであります。 第四は、厚生大臣に緊急防疫措置として都道府県知事に必要な防疫手段の実施を命じうるよう規定した点であります。 第五は、公衆衞生又は治安維持の職務に携わる公務員及び獣医師に対して予防員から協力を求められたとき拒んではならない規定を設けた点であります。 第六は、抑留した犬を收容するための抑留所の設置を都道府県知事に命ずる規定を設けたのでありますが、この措置は狂犬病発生上最も危険と考えられる未登録犬、未注射犬、浮浪犬等を抑留した場合これを收容せんとするものであります。 第七は、登録手数料、予防注射の実費以外に犬の所有又は管理に関して国又は地方公共団体の課税することを禁じた点であります。これは飽くまでも、犬の所有者に積極的な登録と予防注射の実施等を期待せんがためであります。 第八は、家畜伝染病予防法から犬の狂犬病を分離いたしましたので、これに伴なつて家畜伝染病予防法中必要な改正をいたした点であります。 以上が本法案の大要であります。何とぞ御審議の上速やかに御可決あらんことをお願いして説明を終ります。 |
○委員長(山下義信君) |
ちよつと御相談申上げますが、この法案は昨日衆議院を通過いたしまして、今日本委員会が開会せられる以前にこの法 案が我々の手許に廻つて参りましたのでありまして、皆さんも御熟覧の時間が十分おありにならなかつたのでありますが、如何いたしましようか、この際本法案 の内容につきまして、逐条とまでは行かなくても、大体法案につきまして、只今提案理由で述べられましたことをもつと詳細に承ることにいたしましようか、如 何いたしましようか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○委員長(山下義信君) | それでは提案者でもよろしうございますし、便宜他の人でもよろしうございますが、法案の内容につきまして総則についてはこうしてある、第二章にはこうしてあるというような大体の説明を具体的に法案と照し合わせて簡單に一つ御説明を願いたいと思います。 |
○衆議院議員(原田雪松君) |
ただ法案の内容は御覧頂きますと分ると思いますが、疑義を挿まれるのではなかろうかという点を気付いたまま御説明申上げて見たいと思います。
特に衆議院の方で質問を重ねられましたその問題等も必要であろうかと存じますので、その点だけを申上げて見たいと思います。 この第十六条が非常に問題になつたのであります。都道府県知事は狂犬病が発生した場合には緊急の措置、それが交通遮断の問題と制限の問題でございます が、人の伝染病でさえ交通遮断をする種類のものは極めて少いのだ、犬について人までも遮断することは当を得ていないのではないか、こういうふうな質問の要 点だつたと存じます。これは御承知の通り、人間であればいろいろな予防法であるとか、いろいろなもので厳守ができますから差支えないのでありますが、犬で あるが故に一層こういう遮断の要があるのだという、こういう説明をいたしておるのであります。勿論御承知の通り、これは地方長官の権限によりまして禁止を やるには殆んど私共は今まで携わつて経験をしておりませんが、大部分は制限でありますが、若し爆発的にその附近に狂犬が五頭も八頭も出た、咬傷人員が少く とも三十人も四十人も出た、特に咬傷というものは可憐な子供に多いので、実際非常に痛ましい有様になつておるのでありますが、そういう意味から非常時を察 してのことであるという説明をいたしております。而も御承知の通り犬というものは、どんなに人の隔離をやりましても、若し発情期の場合でありますという と、一頭の牝犬がおりますと、野犬が何十も襲来いたし、こういう場合には防止できない、そういう場合にはこういう措置をやらなければ絶対に防圧の手段はな い、このように考えるのであります。そういう意味からお答え申上げまして御了承に与つたのであります。これは地方長官の権限によつて三日としてありますけ れども、適当に伸縮ができる、そうしてその実際に即した方法によつて禁止でなくても制限をしてやることができるのじやないか、こういう意味であるのであります。 それから第十九条の厚生大臣のその権限の問題でありましたが、これもこれは現在ではまだ民主化しておらないけれども、仕方があるまいというようなことで呑んで頂いたのであります。 それから課税の禁止の問題でありますが、二十二条で「国又は地方公共団体は、犬の所有又は管理に関して税を課してはならない。」これが地方税関係と関連 いたしまして、この項目だけはとらなければならないというようなことで、これだけはOKのときに修正、抹消でOKを取つております。これだけがお手許にあ るのと違うのではなかろうかと存じます。 それから第三条の予防員の質問がございましたが、これを予防員が職員、即ち獣医師、防疫員、そういう者が急な場合に間に合うだろうかどうか。それだけの 直ちに陣容の裏付ができるかという質問がございました。これは御承知の通り予防員は厚生省関係でございませんで、食肉衞生食品管理員というような人達が一 県ごとに約三十名おられるようであります。そういう方々が予防員になられて、そうして権限を持たれる。それから開業獣医師が果して直ちに役に立つかという お説でございますが、現在では開業獣医師の方では無医村は殆んどございません。大きな村になりますと一ケ村に三人か五人おりますので、いつ何時でも非常時 の場合にはそれに応ずることができる、こういうことによつて御説明申上げまして、了承願つたのであります。 その他大した質問はござついませんで、原案のまま委員会では御承認を頂いた次第でございます。その他にお気付の点がございましたならば、私の知つた範囲 内ではお答えさして頂きますし、よく分らない点は厚生省からお見えになつておりますから、お答えをして頂くようにお願いを申上げたいと存するのであります。 |
○有馬英二君 | 全国の犬の予防注射の現状を一つ御説明願いたい。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 現在予防注射を実施しておられますのは、これは三ケ年の計でございまするが、昭和二十三年度は二十四万七千九 百三十二頭の予防注射をやつておられるようであります。それから二十四年度の十月現在で七十四万八千六百二頭、それから本年二十五年度は六月までの総数で ありますが、九十六万二千六百四十頭でございます。これは本年はまだ半年しかなりませんが、これだけの実績を挙げております。以上。 |
○深川タマヱ君 | 提案者の御説明を伺いますと、大体これは狂犬病に対する予防的な措置のように存じますが、一度咬まれましたら永久に治らな いような恐ろしい病気といたしますと、根本的にやはり治療の方法を考究しなくちやならないと思うのでありますが、今日国家でこの狂犬病を治療いたしますに ついて、特に何か経済的な援助でも与えて研究さしているのでございましようか。実情を一つ。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 現在では予防注射による以外にはないようでありますが、お話の通り非常にこわい病気でありますので、これに一 度罹りますと、本当の狂犬でございますと、コルサコフ病か、半身不随になつて余り役立たないというふうな人が多いようでございます。ただ時間的な処置が非 常に重大な問題でありまして、ここらの都会地は非常な準備も整つておりますが、田舎になりますと、八時間以内にこれらの手当をしなければ全然駄目だ、こう いうことを言われているのであります。現在のところではパスツール・ワクチンを注射いたしております。それにマフアゾール・ワクチンを併用いたしまするの で、治療は完全なり、予防も完全なり、こういうことを言つております。まだ血清のワクチン製造上に多少の隘路があるのじやないか、こういうことが考えられ るのでありまして、これは従来のワクチンは、御承知の通り金がかからないように野犬に接種をしてやつておつたのでありますが、この頃はGHQの方でも注意 いたしまして、山羊とか、或いは緬羊であるとか、兎であるとかいうものを試験動物にしなければならない、野犬ではまだ危険がある、こういう指示をしておら れるようであります。これは厚生省のお役人もおいででありますから、よく御存じと思いますが、私はそういうことをまた聞きしております。そういうことで完 全治療の検出に大童になつて研究せられているようであります。これが今の段階のように考えるのであります。 |
○有馬英二君 | 何故東京或いは関東附近だけに狂犬病が流行しておるのですか、その点を一つ御説明願いたい。 |
○説明員(石橋卯吉君) | 狂犬病の発生地区が関東地区だけで、外の地区には発生しておらないのであります。今から三週間ばかり前に大阪に一 頭出たのですが、非常に地区が限られているのであります。この点につきましては、どうもその原因が突きとめられないのであります。結局疾病の流行の波が関 東地区にある。この点は話はそれますが、赤痢におきましても、やはり関東地区に流行の波があつて、従来相当に多かつた九州地区辺りでも比較的少いというよ うな一つの疾病の波の現象がありまして、その原因についての巨細な究明については、未だ学者の間でもこうであるという確論を得ないような次第でございます。 |
○有馬英二君 | この狂犬病は御承知のように犬に咬まれて発生する病気ですから、犬を経由しない、或いは犬に咬まれないようにすれば、病気は 起らないわけであります。伝染しないわけでありますが、目に見えない細菌の病気とは違つて、非常に予防が簡單であり、又完全に行われ易い性質のものである と思います。従つてこれが特に交通の頻繁であり、又人間が最も密集しておるところの東京を中心とした関東地区にかように起つておるということは、犬の処置 に非常に不完全な点があるに違いがないと察せられるので、この点についてどういうようになつておるか、御説明を願いたい。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 御尤もな御質問と思いますが、関東地区に限定しておるような傾向が今お話の通りあるのでありますが、私はこの 法案によりまして登録というものを完全に実施いたしまして、未登録犬を野犬に取扱う、こういうことにしてやるということが一つと、もう一つつは早期診断を いたしまして、そうして完全な防疫陣営を強化いたしまして、これによつて完璧を期す、こういう点であると思います。関東地区に多いのは比較的に野犬が多い のでないかという感じもいたすのでありますが、これは勿論九州方面にも相当あるのでありますが、実際上の数から言いますと、私の県あたりでも畜犬として畜 犬税を出しておりますのは三分の一に過ぎないのであります。その他は殆んど野犬と同様でありますので、本則によつて野犬と畜犬との区分をはつきりする、そ うして不明瞭なものは抑留所を作りましてそれによつて早期発見の途を講ずる、診断を正確に期す、こういうことでいいのではなかろうかと思つておりますが、 こうやらなければ従来の伝染病予防法の一部に加えただけでは、これの完璧は期し難い、こういう点から実はこの法案を審議願つておるわけでありまして、おつ しやる通り、咬まなければ実際にこれはうつらないのでありますが、併し猫が掠つて人間がうつつた実例が幾らでもございます。そういう関係からこの登録とい うことを正確にやりまして、野犬との区別をつけて、むしろ野犬であるものは場合によつては撲殺をする。今も野犬撲殺の方法は厚生省でとつておられるのであ りますが、今尚欠陥な点が沢山あるように思つております。現在私共の見解では、今申上げました通り予防注射を受けるのが百万頭おりますので、野犬というも のが百五十万以上もあると考えております。これを整理いたしますことにおいてそこに正しい見方が現れて来るのではなかろうか、さように存ずる次第であります。 |
○井上なつゑ君 | 第三条によつて狂犬病の予防員を置かれまするのでございますが、大体予防員は保健所に置くのでございましようか。実はこの 間近県を歩いておりましたら、一頭の浮浪犬が附いて来て仕方がない。こわいから横に行くと横。左へ行くと左、一町程待つておりますと、ちつとも先へ行かな いで、又後を向いて帰つて来るのですが、どこの犬か分らない。鑑札も何も下げていない。こわいものでございますから、こちらで引つこむと又戻つて来る。少 し頭が狂つているのじやないかという気がしてしようがないのですが、こういう犬がいるときはどこへ言つて行つたらいいのですか。予防員はどこにいるのです か。連絡に行つている間に逃げてしまうのではないかと思います。 |
○説明員(石橋卯吉君) | 只今狂犬病の予防に従事いたしておりますのは、保健所の職員がやつております。保健所の指揮を受けて捕獲員が歩いておる筈でありますけれども、非常に数が少いので、御存じのように犬がやはり相当におります現状でございます。 |
○藤森眞治君 | 予防注射の先程数字をお示しになりましたのですが、これまでどこで予防注射をやつて、予防注射をやりました経費はどのくらいのものが今までかかつておるのですか。それをちよつとお聞きしたいと思います。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | これは各県によつて多少違うのではないかと存じますが、国自体がやつておるのではないようであります。大体予防注射は一頭百五十円見当で、県費で徴收いたしておるようであります。それを財源といたしまして、県の防疫陣営を強化しておる、こういう実情であります。 |
○藤森眞治君 | 県でやつておるのでございますか。 |
○説明員(石橋卯吉君) | そうです。 |
○藤森眞治君 | 県でやつていると、つまり保健所にでもやらしておるというわけですか。その所管はどこの所管になつておるのですか。 |
○説明員(石橋卯吉君) | 保健所を單位に大体やつておるのでありますが、大概の保健所は県の直営になつております。ただ大きな市にあります 保健所のみが、市長の下に属しておるというような形になつております。大体そういう仕事は全部保健所でやるようになつておりまして、今度の法律もその線で やるように仕事をお願いしておるわけであります。 |
○藤森眞治君 | これは逐条的にお伺いしたいのですが、第二条の「公衆衞生に重大な影響があると認めるとき」とあるのでありますが、これは何 故特にこの重大ということが書いてありますのでしようか。公衆衞生に影響があると認めるときは云々、こういうことでいいのじやないのですか。重大というこ とはどういう点に限界を置いて重大とお決めになるのでしようか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 重大と言いますのは、今おつしやるように、これは少し言い過ぎかも知れませんが、非常時を指したものであつて、普通はまあ影響があるという程度に解釈してもいいのではないかと存じます。 |
○藤森眞治君 | 仮に狂犬病が一頭発生しても、これは考えによれば重大でもある。ただ数の上から言つて一頭二だからと言つて、軽く考えること にもなります。これは重大というよう着、特にこのような形容詞を入れないで、公衆衞生に影響があるということでよく分るのじやないか。この重大ということ があるために少し解釈に困るようなことはありませんか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 私の説明が非常にまずかつたんで、補足いたさせます。 |
○衆議院法制局参事(福原忠男君) | 只今の点は、実は第二条の但書というのは、本法が犬の狂犬病のみに限定しているのに対して、厚生大臣に 或る特殊の場合に犬以外の狂犬病についてこの法律で認めるような相当強力な措置を講ずることを委任している個所なのでございます。それ故実はできますこと ならば、この点も法律に明文を以てこのような国民の権利義務に影響することなんでございまするから、書くべきが至当でありますが、現在の段階においてはこ のような家畜伝染病予防法の第一条第一項に掲げる家畜以外の動物について狂犬病が発生した場合、どの程度の限定を書くかというのが法律上相当技術を要しま するものですから、これを厚生大臣の権限に委ねたのでありますが、必ずしも厚生大臣の権限に委ねたことについて、法律で規定すべきことをそのような行政官 庁に委ねたということについては、或る程度の制限をする必要がある、そのような点から、この重大な影響があるということで一応の制限をし、且つ又そのよう な場合にもその期間を一年といたしまして、そのような重要な措置を講ずるならば、それぞれ立法措置を講ずる必要がありますので、この一年間の適当な期間に 立法措置を講ずるということを要件としてこの但書を置いた、かような次第であります。 |
○藤森眞治君 | 次に第三条の予防員ですが、大体予防員はいつもどこかに常置、今井上議員からも御質問がありましたが、常置してありますので しようか。それとも今定員があつて、何人程置いてあるというふうに決まつておりますのでしようか。それから尚先程、若し急な場合には食品衞生の方面の職員 も入れるという話でしたが、そういうふうに急にその方へ振り替えて行つて、果して予防員としての仕事ができるのでございましようか。その辺の見通しは如何 でございましようか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 私が実際に当つた面をお答え申上げたいと思いますが、保健所を主体といたしておりますが、保健所は現在までは 余り行き渡つておりません。それだから大体これは厚生部門に属しますので、例えて申しますと、各警察ごとに衞生技手がおります。それのみでも本当に突発の 場合はどうにもなりませんので、警察獣医或いは地方事務所におりますそういうもの、或いは地方の地域的の開業獣医師と協力をいたしまして、急に仕事をする わけでありますが、勿論その監督その他の指揮はそういう防疫員の方でやりますけれども、全体の下働きは開業獣医師が当る、そうでなければ、仕事の面に非常 な支障がございますので、そういうことを実際面にやつて完璧を期しておる次第であります。 |
○藤森眞治君 | 只今のお話で、開業獣医師も予防員になさるというお考えなんでありますか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 予防員ではございませんが、協力者としてやるという意味でございます。 |
○委員長(山下義信君) | 予防員の常置の問題或いは定員等はどうなつておりますか、まだお答えがないようですが。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 定員はまだはつきりいたしておりませんが、先程申上げました通り、保健所と、それから食肉関係の職員の方は直接厚生省に関係があるので、これはそれぞれこの法案が御承認を頂きましたならば、地方長官が適当な処置によりまして完璧を期する、こう存じております。 |
○藤森眞治君 | 第四条についてですが、登録の申請でございますが、都道府県知事に登録の申請をするということになりますと、実際問題として はどういう登録の仕方をするのでございましようか。犬の所有者が登録したいということの実際の手続きでございます。それと、若し犬の所有者が変つたときは どういうふうにいたすのか、犬の移動の場合、その二つについて伺います。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 今おつしやいました地方長官への届出ということは、これは町村を経由しなければならんと思います。それによつ てこれは別に省令を以て定める、ついでにそういうことを謳おうという考えであります。それから変更の場合は勿論変更届ということが省令なり或いは県条例で 決められるものと存じております。 |
○藤森眞治君 | 町村経由といたしますると、犬を一匹飼つても申請して登録されるのに相当な日にちがかかるのではないかと思われますが、殊に予防員が保健所に大体常駐しておるという建前があるとすれば、むしろ保健所を通じて保健所で直ぐに登録をするというようなお考え方はありませんか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 只今の御意見御尤もと思いますが、現在までは保健所の数は少いのでございまして、一応この目的達成のためには 少し無理がありましても、一応のところは省令或いは条例等が設けられます間は、その方法をとる以外には先ずないのではないか。御意見の趣旨はよく分つてお ります。将来そういうふうに考えたいと思います。 |
○藤森眞治君 | そうしますと、これは成るべく便宜なように町村経由ということと、一般保健所経由という二本建は如何でしようか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | この保健所が強化されまして、数が殖えますとおつしやるような通りにやつても結構ではないかと存じております。 |
○藤森眞治君 | それでは、この注射済の鑑札とか或いは登録の証を犬の首につけて置かなければならないということになつておりますが、何せ相 手は動物のことですからよく紛失いたします。現に犬を飼つておられた人はこれの経験は随分おありになりますが、そういう鑑札を失つた場合はどういうふうな ことになるのでございましようか。これはこの野犬と間違えられる関係がありますので、しかと承つて置きたいのです。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 紛失をいたしますと、その番号と氏名を記しまして届出をいたします。と同時に鑑札の再交付願いをいたします。こういうことによる以外はないと思います。 |
○藤森眞治君 | それからこの犬の死んだ場合には一登録はしますが、死んだ場合の規定が何もないのですが、これはもううつちやらかして置いてよろしいのですか。これはやはり死んだということを報告するなり何かしなければならんのでございますか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | これは別に規定があるのでありますが、常識的に考えまして、死んだ場合は埋歿、焼却ということに大体常識では なつております。狂犬病に罹つた疑いのあるものは、これはその保健所において科学的に解剖をいたしまして、さつき申し上げましたように、ノーマルを調査す るということになつております。そういうもの以外のものは、常に理髪並びに焼却ということは常識的になつておるようでありまして、町村でも、そういう埋歿 所というものが設けてありますから、そういうことをいたしております。街、狂犬病が附近で、或いは県内に流行したという場合は焼却でもいたしましようし、 別にその点は間違いを生ずることはないと思います。 |
○藤森眞治君 | それから第六条の捕獲人のことですが、現在はどういう捕獲人を使つておいでになりますでしようか。よく捕獲人の中には必ずし も善良な者がいないということで、大切な犬が盗まれる、或いは殺されるということがあるのでございますが、これが又捕獲に行きまするのにも、これは別に捕 獲人であるというような第三条第二項の規定があるのでありまするが、これの標識も何も持つておらないということでは果して捕獲人かどうか分らないのです が、そういう点については如何なお考えでございましようか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | その点は私共もみずから体験をいたしております。捕獲人の資格につきましては、これは県の方で厳選をいたし、 のみならず今お話になりました通り、必ず早く見易いところに腕章でも付けるとか何とかということを省令なり、或いは県条例で設けて、所期の目的を達成いた したいと思います。 |
○藤森眞治君 | それから第七項のところで、「処分によつて損害を受けた所有者に通常生ずべき損害を補償する。」というのですが、「通常生ずべき損害」と言いますのは、どういうふうな意味でございましようか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | これは、こういうふうに書いてありますけれども、事実こういうことは恐らくあり得ないと存ずる次第でありま す。ただいろいろ御相談申し上げました結果、憲法上こういう字句を入れて置かなければいけないと、こういうことで入れたに過ぎませんので、実際上はこうい うことはあり得ないということが考えられる次第でございます。 |
○委員長(山下義信君) | あり得ないのならば、この条項は削つてもよいのですか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | これは憲法上入れなければならないのだという話でございます。 |
○藤森眞治君 | この「通常生ずべき損害」と、こういう表現をしなければならんのでしようか、ただ損害を賠償するというそこらの違いはどういう点であるか、どうも分らないのですが。 |
○衆議院法制局参事(福原忠男君) | この点は新憲法による私有財産権の補償の際の……新憲法の「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共 のために用いることができる。」というこの精神を酌みまして、この本法におきまする未登録犬或いは未注射犬の抑留、従つて抑留後の措置から犬の処分をする ことができるということを六項に認めておるのでありますが、これは一種の所有権に対する公共の必要上生じた損害だと考えるのであります。これに対しまする 関係から正当の補償をするというので、第七項を置いたのでございます。又今お尋ねの「通常生ずべき損害」という表現がどうかということですが、これは先の 第六国会でございましたが、文化財保護法などのときも同様の表現を用いましたので、それを踏襲しました。その趣旨とするところは、正当な補償ということを 条文上表現したいということでございます。 |
○藤森眞治君 | 次は第九条の隔離についてですが、獣医師又は所有者は、その所在の場所で犬を隔離しなければならないということになつており ますが、これはこういう場合が考えられる。獣医師の所に犬を連れて来て、それが狂犬であるということが発見された場合には、獣医師の所で隔離するのです か、或いは所有者の所でされるのか、或いは適当な所に持つて行くか、これは実際の面に当つて非常に面倒な問題が起りますが、そこらは如何でしようか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 私共の考え方といたしましては、獣医師は大抵艦を持つておりますので、その所でそういう危険なものは繋留する、そういう見方が正確だと思つております。事実そうやつております。 |
○藤森眞治君 | そうしますと、たまたま獣医師がどこかで狂犬を発見したというような場合に、そうするとそこで隔離しなければならんというよ うな窮屈なことが起つて来ますね。これは何か或る一定の場所に対する……その場所ということが余りに窮屈になりはしないかと考えられるのですが、いろいろ な場合が出て来た場合に非常に窮屈だと思いますが、如何ですか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 獣医師が往診をいたした先で若しそういう病気を発見した、こういう場合は勿論所有者の家に繋留もできると思い ます。尚又保健所において将来はそういうものを收容するプール等もできるのじやないかと思つておりますが、大体に総括的にプールができるようになつており ます。抑留所は、罹病犬のみに対しこの取扱を規定したはつきりした明文がないようですが、常識的に考えて必ずそういう処置がとられ得る、こういうことで御 了承を願いたいと思います。 |
○藤森眞治君 | 第十一条で伺いたいのですが、第十一条の終りの、「予防員の許可を受けなければこれを殺してはならない。」これと九条との関 係は如何になりますか。「人命に危険があつて緊急やむをえないときは、殺すことをさまたげない。」ということは許可も何もなしに殺せるということでありま すが、こちらには殺してはならないというふうになつておりますが、その関係はどういうふうに解釈したらよろしいのでございますか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 十一条の問題はこれは隔離をしておる場合の問題であります。前の方は隔離をしない場合の問題であります。 |
○深川タマヱ君 | この法案に連関いたしまして、当然野犬狩が行われると思うのでありますが、具体的にどういう方法でなさるのか。私達がよく 見聞きいたしますのは、毒饅頭なんか喰べさしてその場で殺して連れて行つたりするようなことがあるようですが、動物愛護の精神から、子供の教育に及ぼす影 響も考えなければならないので、どういうふうにして捕獲なさるのかということが一つと、それから連れて行つた犬の処置でございますが、野犬は相当多いと思 うのでありますが、連れて行つた犬の処置はどうするのか、殺して肉にしてお売りなさるのか、或いは盗人の予防にでもするということで希望者にお譲りなさる のか。それからもう一つ、これは北海道に私が昨年参りましたときの経験でありますが、これは図体相応に、大きな犬には牛乳箱や魚箱を引かしております。そ れは相当重労働で、休んでおるときには疲れてぽかんとしております。これに反して内地では全く有閑マダムのような印象を受けたのであります。内地では犬を 使う希望者がないのか、それとも何かの法律で許していないのか、若し許していないとすれば、やはり動物愛護という精神で許さないのか、それなら何故北海道 で許しておるのかということも一つついでにお聞きしたいと思います。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 動物虐待ということでありますが、犬も或る程度の能力的なものは発揮させることができるのじやないかと私は思 います。御承知のように北海道等は犬が冬におけるところの橇の唯一無二の労働者であるのでありまして、これによつていろいろな仕事を授ける、又田舎に参り ましても、都会の一部でも相当多いと思いますが、いろいろな運搬いたします場合に犬が人間の先引きをする、或いは厚生車の先引を犬にやらせるということは 幾らでもあるようであります。併しこれはやはり畜犬としてそれだけの飼養管理を施して愛撫の傍ら業務に携わらせるということでありますから、動物虐待にな らないのではないか、さように考えます。それから捕獲をどうするのか、殺した犬まで肉にして売るのじやないかというお尋ねでありますが、さようなことは絶 対にあり得ないのであります。大体肉を売ります場合は、食肉関係の規則があるのであります。それによつて検査を受けて検印を貰わなければ巷間に販売するこ とができないのです。参考に申上げますが、本年度の一月以降現在まで犬を捕えておりますのは六万九千九百七十九頭でございます。そのうち処分しております のが四万二千三百十三頭処分しております。又持主が分らないものにつきましてはプールを作りまして飼養管理をやつて、通知いたしましても引取手がないとい う場合には野犬として処分しなければならないということであります。その場合の肉はどうするかということは、それらの肉は食用には供しないのであります。 併し皮のみは犬皮犬毬と申しまして、そういう面で幾らか金になるのじやないか、そういう收入はどうするかということが起つて来ると思いますが、これは県の方で何とか処理をする。個人には絶対にタツチさせない、個人にはタツチさせてはならないということになつております。それは明瞭に運営が行われる、さように存じております。 |
○委員長(山下義信君) |
お諮り申上げますが、本案は明日続行いたしたいと思いますが、如何でございましようか。本日はこの程度で止めて置きまして、本案の審議は明日続行いたします。尚この際御相談申上げることがございます。社会保障制度に関する調査につきまして、右はいずれも調査進行中で ございますが、今期国会開会中には調査が完了いたしませんので、未了報告書を提出いたしたいと思いますが、如何でございましようか。御異議ございませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○委員長(山下義信君) |
御異議ないものと認めます。次に本調査の閉会中の継続調査要求書を提出いたしたいと存じますが御異議ございませんでしようか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○委員長(山下義信君) |
御異議ないものと認めます。つきましては、未了報告書、要求書等の作成その他につきましては、すべて委員長に御一任願いたいと思いますが、如何でございましようか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○委員長(山下義信君) |
御異議ないと認めます。つきましては、本院規則第七十二条によりまして、委員長が議院に報告する報告書には多数意見者の署名を附することになつておりますので、御異議のない方は順次御署名を願います。 多数意見者署名 小杉 繁安 井上なつゑ 有馬 英二 長島 銀藏 中山 壽彦 大谷 瑩潤 池田七郎兵衞 河崎 ナツ 堂森 芳夫 深川タマヱ 松原 一彦 |
○委員長(山下義信君) | 御署名洩れはございませんか。――御署名洩れはないものと認めます。 |
▲
第8回国会 衆議院 本会議 9号(昭和25年07月31日)原典5
○委員長(山下義信君) |
次は狂犬病予防法案の審議を続行いたします。小杉理事一つお願いいたします。 〔委員長退席、理事小杉繁安君委員長席に着く〕 |
---|---|
○理事(小杉繁安君) | 狂犬病予防法案の質疑を続行いたします。御質問ございませんですか。 |
○有馬英二君 |
二、三提出者に質問をいたしたいと思います。 第一條の「この法律は、狂犬病の発生を予防し、」と書いてありますけれども、狂犬病の診断は非常にむずかしいので、やはり狂犬病、或いはそれに類似した疑似症も、これに加えて置く必要はないでありましようか、どうでしようか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 狂犬病その他の伝染病も同じであると思いますが、発生予防ということが根本問題になるであううと思います。疑 似症というようなものであれば、もう事実発生したと同じようなものでありまするので、これを未然に防ぐ方法として、畜犬の登録並びに予防注射、こういうも のによつて疑似症等も発生しないようにというような狙いを持つているものであります。 |
○有馬英二君 | 実際においては、よく人に噛みつくような犬があつて、それを捕えますと、それが真症か疑似症であるかということが、極めて鑑別が必要になるわけです。そういうようなことも引括めここの法案を作るというように考えたら如何でしようか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 法の上からは飽くまでも疑似症を認めておるわけでありまして、大体今お話しになつたように、噛みつくという犬 がある。併し、果して病毒を持つておるかどうかということは疑問であります。そういうものは注意をしなければなりませんが、そういうものを繋留をして、そ の診断を正確にいたしますか、或いは一定のプールでこれを抑留いたしまして、それによつて判定を下す、こういうふうな方法があり得ると思いますが、目的と いたしましては、疑似症もおつしやるような意味では含んでおるということを、御了承願いたいと思います。 |
○藤森眞治君 | つまらんことをお尋ねいたしますが、鑑札のことですね。この鑑札は、大体全国を統一して同じような鑑札をお付けになるような 何かお考でもありましようか。都道府県でいろいろ違つておるということも考えられるのですが、例えば違つた県との異動なんかもあります関係で、何かお考で もあれば一つ承りたい。 |
○説明員(石橋卯吉君) | 鑑札の形を均一にする考があるかどうかという御質問ですが、私共もこの大きさや形を統一いたしたいと思います。 |
○有馬英二君 | この手数料の問題でありますが、承ると、手数料が、單に手数料というような意味でなしに、これが非常に財源になるらしいようなお話でありますが、そうすると、財源としては余り少な過ぎるように考えられるのですが、如何でしよう。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 成る程、三百円以内ということでありますので、いろいろな厚生省におきまして規格を定められました施設をやる ということになりますと、地域的な不足が出て来るということも言えるであろうと思います。併し、大体において頭数が、これを総合的に考えて見ますと、一県 に必ずしも経営ができないというような頭数ではないと思います。事実上現在百万頭近くの畜犬がおりまして、これを精密に登録制度を実施いたしまして、この 予防目的達成のためにこれを調査いたしますことによつて、約百五十万の犬が浮き上つて来るではなかろうかということが一つ。それから、昨日もいろいろ先生 方の御意見も拝聴いたしたのでありますが、地方自治庁によつて、その幾分を町村団体にやらなければならないであろうと、これも一応そうでなければならんと 思います。そういう意味からしますと、ますますその金額が少くなるということが考えられるのでありますが、この点は大体頭数と睨み合せまして、その予算の 裏付けによつて仕事ができ得るという見通しが一つございます。尚又予防注射をやります場合は、衞生関係の予防員であるとか、保健医自身におきましても実費 の徴收はしてかまわないと思います。そういうもの等を合せますというと、この保護の目的達成には別に支障を生じない。こういう考え方を持つておるものであります。 |
○有馬英二君 | 実際においては余り手数料が高いというと金を持つている人はいいかも知れませんけれども、何でもない犬を飼つているような人 は、たとえそれが三百円でも百円でも出すのを惜しんで登録しないというような傾向を生ずるかも知れませんが、大体において私の考ではこれは非常にいい考で ありますけれども、北海道の田舎のようなところへ行くというと犬が何十もいて、それが全部野良犬で所有者が殆んど分らん。そんなものを登録する人は殆んど 出て来ないと私は思う。結局登録する数は、百万頭ありましても、殆んどその中の一部分しか登録しない。後は殺されるかどうかなつてしまうかも知れません が、従つて登録数が少くなれは費用としては大変少ししか集まらない。それに結局手数料を払うような人は非常な愛犬家であるか、或いは実際に非常に役立つ犬 を持つておるかというような人で、それは少しくらい余計税の意味で払つても差支ないのでございますから、結局もう少し余計徴收しないというと実際にこれが 適用できないんじやないかと思いますが如何ですか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 只今、田舎の方へ行きますというとどうも実施が困難であろう、頭数も恐らく百万頭なんということは見られない というようなお話でありますが、現に予防接種を百万頭近くやつておるのであります。而も北海道のように一箇村で直径七里も八里もというような所は多少の困 難性があるかも知れませんが、この金を取る手数料というものは、一つの登録でありまして、犬の一つの戸籍を拵える。それに附随して安全保障の意味において 鑑札を着けさせる、こういうようなことでありますので、若し下足だという場合には、地方自治審査会の方に申請をいたしまして、又課税の方法も考えられる、 こう思いますので、現在の状態では決してこれで支障はあり得ない。犬を飼つている方々の方でも、田舎は特別でありますが、大体各県でやつております状況を 見ましても、畜犬税というもので三百円乃至四百円を払つておるというような状態になつておりますので、そういう所は余り心配はなくてスムーズに行くのでは なかろうかという実は考を持つておる次第であります。 |
○有馬英二君 | 第五條の第一項ですが、予防注射を六ケ月毎に受けさせなければならないとありますが、六ケ月毎に何回注射するということは書いてないんですが、何回注射するのですか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) |
六ケ月毎でありますから、年に二回ということになりまする 〔理事小杉繁安君退席、委員長着席〕 |
○有馬英二君 | そうすると毎年々々二回づつ何年間もそれは注射をしなければならないのですか。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | さよう考えておりまする |
○有馬英二君 | 尚この注射に対する費用の問題でありますが、これは今度の生活保障制度の際にいずれ伝染病のところでいろいろ審議されると思 いますが、あらゆる伝染病の予防が国費で賄われるというような希望がありますから、これもやはり一つの伝染病に準ずるものだろうと思いますから、注射料は 国費でとるということで、犬の所有者には払わせないということにならんとも限らんと思うのであります。その点についてお伺いいたします。 |
○衆議院議員(原田雪松君) | 誠に結構な御発言でございまして、私共も是非そういうように先生方にお願い申上げたいと思います。併し現在に おきましては予防液等も相当高値を呼んでおりまして、若干の手数料を取り、大体全国の平均レベルが二頭百五十円くらいの注射料を取つておるようでありま す。こういうことが今お話の通り国費を以て補つて頂くということになりますというと、誠に犬の所有者というものは恩惠に浴するということでありますので、 誠に結構なお考だと思いますが、どうぞ一つ実現するようにお願い申上げたいと思います。 |
○委員長(山下義信君) |
外に御質疑ございませんか。別に御質疑もないようでございますから、御質疑はこれにて終了したものと認めて御異議ございませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○委員長(山下義信君) |
御異議ないと認めます。それではこれより討論に入ります。御意見のおありの方々はそれぞれ賛否を明かにしてお述べを願います。尚修正意見がどざいましたら討論中にお述べを願いたいと存じます。 委員長の手許まで藤森委員から修正案の提出の御通告がございましたから、この際藤森委員より修正案につきまして御説明を願いたいと存じます。 |
○藤森眞治君 |
若干修正したい点がございますので、只今修正の案文をお手許にお届けいたしますから、御覧頂きたいと思います。 この修正案の第一点は、都道府県知事に犬の登録を申請して鑑札の交付を受ける場合には市町村長の手を経て行うことにしたい。こういうことで、これはいろ いろ手続上の簡素の点、或いは将来、地方分権の点等を考慮いたしまして、こういうふうにいたしたいという考を持つたのであります。 第二点は、狂犬病にかかつた犬又は疑いのあるものを隔離する場合の所在の場所は限定する必要を除きたいというのであります。 第三点は、犬の抑留所の繋留を厚生省で定めることはどうかと思いますので、これを除いたのであります。 第四点は、犬又はその死体の移動制限の権限を保健所を有する市にあつては、その市長に移動制限をすることができるようにいたしたのであります。所要の規 定によつて検疫を受けない犬の輸出入をした者、犬についての届出をしなかつた者及び狂犬病にかかつた犬、又は疑いのあるものを隔離しなかつたものに対する 罰則は、罰金だけに止めたいということが趣旨であります。 只今修正案を朗読いたします。 狂犬病予防法案の一部を次のように修正する。 第四條第一項中「都道府県知事に」の下に「市町村長(都の区の存する区域にあつては区長とする。以下同じ。)を経て」を加え、同條第二項中「犬の鑑札 を」の下に「前項の市町村長を経て」を加える。第六條第四項中「(東京都の区の存する区域にあつては、保健所長とする。以下同じ。)」を削る。第九條第一 項中「その所在の場所で」を削る。第二十一條中「、厚生省令で定める基準により、」を削る。第二十五條中「第八條第二項、第三項及び第十五條」を「第八條 第二項及び第三項」に改める。第二十六條中「一年以下の懲役又は」を削る。 以上が案文でございまして、その理由は只今簡單に御説明申し上げました通りでございます。 |
○有馬英二君 | 只今の修正案に賛成いたします。 |
○委員長(山下義信君) |
藤森君の修正動議は成立いたしました。藤森君提出の修正案を含めましてこれより討論に入りたいと思いますが、御異議ございませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○委員長(山下義信君) |
どうぞ御討論願います。――別に御発言もないようでございますから、討論終結をしたものと認めて御異議ございませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○委員長(山下義信君) |
御異議ないものと認めます。それではこれより採決に入ります。狂犬予防法案につきまして採決いたします。先ず討論中にありました藤森君の修正案を議題に供します。藤森君提出の修正案に賛成の方の御起立を願います。 〔総員起立〕 |
○委員長(山下義信君) |
全会一致でございます。藤森君提出の修正案は可決せられました。 次に只今採決されました藤森君の修正にかかる部分を除きまして、衆議院議員原田雪松君提出、衆議院送付にかかる狂犬病予防法案全部を問題に供します。修正の部分を除きまして衆議院送付案に賛成の方の御起立を願います。 〔総員起立〕 |
○委員長(山下義信君) |
全会一致でございます。よつて狂犬病予防法案は全会一致を以て修正可決すべきものと決定いたしました。 尚本会議における委員長の口頭報告の内容は、本院規則第百四條によつて、予め多数意見者の承認を経なければならないことになつておりますが、これは委員 長において、本案の内容、本委員会における質疑応答の要旨、討論の要旨及び表決の結果を報告することとして、御承認願うことに御異議ございませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 |
○委員長(山下義信君) |
御異議ないと認めます。 それから本院規則第七十二條によりまして、委員長が議院に提出する報告書については、すべて委員長に御一任願いまして、多数意見者の署名を附することになつておりますから、本案を可とせられた方は順次御署名を願います。 多数意見者署名 小杉 繁安 井上なつゑ 有馬 英二 長島 銀藏 大谷 瑩潤 中山 壽彦 池田七郎兵衞 河崎 ナツ 堂森 芳夫 藤原 道子 藤森 眞治 常岡 一郎 深川タマヱ 松原 一彦 |
○委員長(山下義信君) | 御署名漏れはございませんか……署名漏れはないと認めます。 |
原典 | 国会回次 | 院名 | 会議名 | 号数 | 開会日付 | リンク |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 第8回 | 衆議院 | 厚生委員会 | 4号 | 昭和25年07月25日 | テキスト |
2 | 第8回 | 衆議院 | 厚生委員会 | 7号 | 昭和25年07月29日 | テキスト |
3 | 第8回 | 衆議院 | 本会議 | 10号 | 昭和25年07月29日 | テキスト |
4 | 第8回 | 参議院 | 厚生委員会 | 8号 | 昭和25年07月30日 | テキスト 号外(PDF) |
5 | 第8回 | 参議院 | 厚生委員会 | 9号 | 昭和25年07月31日 | テキスト |